ホン・ミョンボ新体制で変革期迎えた韓国=国民の信頼回復へ問われるその手腕

キム・ミョンウ

力が試されるKリーグとJリーグの若手

東アジアカップは、鳥栖のキム・ミヌらロンドン五輪出場を果たせなかった若手のテストの場となる 【Getty Images】

 ただ、監督が変われば当然、選手の構成も大きく変わってくるもの。ブラジルW杯まで残り1年で、チームを固めていかなければならないのだが、その絶好の機会となるのが7月20日から韓国で開催される東アジアカップだ。

 ホン・ミョンボ監督が発表したメンバーは、KリーグとJリーグでプレーする23人だった。選手発表会見でホン・ミョンボ監督は、「私が選んだ選手たちはKリーグとJリーグでいい結果を残している選手たちだ。試合に出場していない選手も数人いるが、来年ブラジルに行く可能性のある、才能豊かな選手たちを選んだと思う」と語った。

 Jリーグでプレーする選手は、キム・ジンス(アルビレックス新潟、DF)、キム・ミヌ(サガン鳥栖、DF)、チャン・ヒョンス(FC東京、DF)、ファン・ソッコ(サンフレッチェ広島、DF)、キム・チャンス(柏、DF)、チョ・ヨンチョル(大宮アルディージャ、MF)、ハン・グギョン(湘南、MF)の7人。
 
 国内組からは、今季のKリーグで12ゴールを決めている長身FWのキム・シヌク(蔚山現代)や南アフリカW杯メンバーのヨム・ギフン(韓国警察庁FC)らが選出され、代表で実績のあるFWのイ・ドングクやイ・グノなどはあえて選ばなかった。

 ソン・ジフン記者は選手選出の意図をこう分析する。

「ホン監督は昨年のロンドン五輪を準備する過程で、力のある20代前半の選手たちの300人ほどを管理しながら、データを集めていました。今回、東アジアカップメンバーに選ばれた選手のなかで、16人がロンドン五輪に行けなかった選手たちです。その代表的な選手がチョ・ヨンチョルやキム・ミヌです。ホン監督もロンドン五輪後、彼らがどれほど成長したのか、もしくは力は停滞したままなのかを東アジアカップでテストしたいのだと思います。逆に言えば、ホン監督がよく知る選手たちを中心に選んだとも言えるでしょう。その先には1年後に迫ったブラジルW杯を見据えているのは言うまでもありません」

 自身の目で確かめた若手に再びチャンスを与え、試す場である一方、同大会が代表指揮官“デビュー”でもある。結果を残したい気持ちが強いのは当然だ。

 ホン・ミョンボ監督はメンバー発表会見で、こうも語っていた。

「結果も内容も重要だと思う。しかし、もっと重要なことは、代表チームが国民たちにどのようにして信頼を得るのかだ。その良い機会でもある。どのような結果が出るか分からないが、ベストを尽くしたい」

 14年ブラジルW杯アジア最終予選は苦戦を強いられながらの2位通過で、失った国民の信頼を回復させるためには結果を残さなくてはならない――。そのためにも優勝することが一番だと、ホン監督は理解している。

韓国代表の鍵を握る日本人、池田コーチとは

 ホン・ミョンボ監督の船出は始まったばかりだが、ソン・ジフン記者はブラジルW杯までに韓国代表チームを作っていく上で、“構成力”に期待したいと話す。

「前々任のチョ・グァンレ監督は海外組でのチーム作りを重視した結果、国内組の選手たちから不満が出ました。前任のチェ・ガンヒ監督は国内組の不満を解消するために、FWイ・ドングクを中心とした国内組を優遇し、元々、代表チームの中心だった海外組から反発を買いました。両者のミスは選手のコンディションと日程を考慮せず、一方に偏った選手の選び方をしてしまったことです。ホン監督は国内組や海外組にとらわれない、客観的な実力の分析によって選手を選ぶことが期待されます。選手のネームバリューよりも、1.競技力、2.戦術理解力、3.チームワークに適合する――ことを基準にすれば、代表チームをまた1つにまとめることができると思います」

 海外のレベルの高いクラブに所属している選手を安易に選ぶというよりも、コンディションやリーグで結果を出している選手、チームのスタイルに合った選手を優先的に選ぶべきだとの意見だ。

 最後にもう1つ気になることを記しておきたい。浦和レッズなどでフィジカルコーチを務めた池田誠剛氏が、正式に来年から韓国代表コーチに就任することが決まったことだ。
 現在、池田コーチは元日本代表監督の岡田武史氏が監督を務める中国リーグの杭州緑城足球倶楽部に所属しているが、6月末にホン・ミョンボ監督は池田コーチに会いに行っていた。池田コーチは09年のU−20W杯、12年のロンドン五輪で、ホン・ミョンボ監督指揮の下でコーチを務めたが、それからも2人の信頼関係はずっと続いていた。
 
 ウ・チュンウォン記者がその経緯を教えてくれた。

「池田コーチは今年1月、杭州と契約した際、『ホン監督から要請があった場合、いつでもチームを離れることができる』という、オプション契約を結んでいました。とりあえず、正式契約となる来年までは、合間を見ながら池田コーチが韓国代表を手伝うことを岡田監督が了承したそうです。池田コーチの役割には期待しています。ロンドン五輪の銅メダル獲得は池田コーチの貢献度は7割くらいあったとみています」

 池田コーチはホン監督のみならず、韓国の選手たちから絶大な信頼を得ているのは事実。今後の韓国代表が池田コーチの力によって、どのようなチームに変革を遂げるのかにも注視したい。

 かつて「Jリーグでプレーし多くのことを学んだ」と語っていた選手が、韓国代表監督になった。日本の同世代でいえば、元日本代表の井原正巳(現・柏レイソルヘッドコーチ)が日本代表監督になるようなもの。そういう視点で見れば、今までの韓国代表とは違い、新鮮に見えてくるかもしれない。
 日本の隣国のライバルはいま大きな変革を迎えた。20日に開幕する東アジアカップ初戦でオーストラリア代表と対戦する韓国。今大会をブラジルW杯に向けた試金石にできるのかに注目したい。

<了>

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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