辺境の地・エストニアで輝き放つ日本人=CL出場に思い寄せる和久井という男

木之下潤

自国リーグとは異なるヨーロッパでの戦い

ブラジル、オーストリアなど8カ国11クラブに所属した経験を持つ。海外で12年間プレーする希少な選手だ 【写真:アフロ】

 JKノーメ・カリュは7月17日にアウエーで、7月23日にホームでフィンランドの強豪、HJKヘルシンキと対戦する。和久井にとっては、初めてとなるCLへの挑戦。過去、ヨーロッパリーグ(EL)の舞台には立っている。その経験を踏まえて、ヨーロッパでの戦いはリーグ戦と違う楽しさがあると語る。

「リーグ戦は、相手が戦い方やチーム事情を知っているので守りを固めるチームが多い。でも、CLやELは、各クラブが国の代表として出場するし、何より勝たないと次に進めないから積極的に仕掛けるところがある。ガチンコ勝負でかみ合う部分があるのでおもしろい。僕らはエストニア代表として、ヨーロッパ全土に『自分らがどれだけ強いか』『自分らがどれだけ価値があるか』を示す責任があるし、表現できる機会を得ている。だから、リーグ戦以上に結束力が生まれる。その中でしっかりと個の力も見せたい。対戦するチームも同じですが、選手やスタッフが強い気持ちで試合に臨むので、特別な緊張感がある。それがたまらない」

 ヨーロッパでの戦いは、他国で試合を行うといった環境面、またクラブの資金面などさまざまな違いがあるため、時として実力以外の差で勝負が決まる。昨シーズン、和久井もそれを実感したという。

「初戦は、アゼルバイジャンのハザールレンカランでした。7月にアウエーでの戦いでしたが、相手の情報が全くなかった。ヨーロッパでの戦いは、特にデータ分析が不可欠です。でも、アゼルバイジャンはシーズンが6月からのスタートで情報がほとんどなかった。一方、僕らは3月からシーズンが始まっていたので、相手は情報収集ができる。昨シーズンの試合映像を見ても、ヨーロッパは選手の入れ替わりが激しいし、サッカースタイルも変わっている可能性がある。何とか2−2の引き分けに持ち込み、アウエーゴールを奪いました」

 しかし、チームとしては大きなダメージを負った。実は、この試合直前まで数人の選手が腹痛に苦しんでいたのだ。アゼルバイジャンまで丸一日かけて移動し、疲れをとりたかったのにもかかわらず、衛生面に問題があり、体調万全ではなかった。しかも、選手たちはホームに戻るのにもまた丸一日かけ、ようやく準備にかかる。

「それに対してハザールレンカランは初戦、直前までキャンプを行っていたのにもかかわらず、プライベートジェットで帰国したんです。フィジカル面で歴然とした差がありました。スカウティングにも人員をかけていたようだし、ホームでの2戦目は完全に分析されていました。結果は0−2だったけど、攻守両面で要所を押さえられました。クラブの財力の差が、勝敗を分ける要因になるなんて思ったことがなかった。戦力的には、相手が上だったと思う。でも、チームとしての戦い方やコンビネーションは僕らが上だった。ヨーロッパで勝つには、実力以外の要素も必要なんだと気づけたことがいい経験になりました」

 ヨーロッパでの戦いを勝ち抜くには、サッカー以外の要素も必要であると、冷静に考えたら分かることかもしれない。JKノーメ・カリュは欧州の辺境にあるエストニアの中堅クラブ。クラブの予算も限られている。だが、和久井には3年間チームとして積み上げてきたサッカーに対する自信がある。

最も脂がのった時期にCL出場を果たせるのか

 今シーズン、JKノーメ・カリュは勝ち点41(7月13日時点)で首位と、リーグ連覇に向けて順調な戦いを見せている。5節のFCフローラ・タリン戦、15節のFCレバディア・タリン戦は0−1で惜敗したものの、昨年までの戦力をベースに、和久井ら主力選手が安定感をもたらしている。それゆえ、HJKヘルシンキとのCL予選2回戦にも期待が高まる。

 エストニアはUEFAランキング47位と、ヨーロッパでは下位に甘んじる。だが、代表選手はドイツやスウェーデンなど他国のリーグで活躍し、実力者もそろう。近年、経済成長とともにサッカーのレベルも上がり、経営改革に乗り出すクラブが現れている。JKノーメ・カリュも3年前に経営陣や選手を刷新。和久井はその目玉に指名された。

 もともとほかのリーグと同様、エストニアも経済的に裕福なクラブが上位を独占。長年、首都タリンに本拠地を構えるFCレバディア・タリンとFCフローラ・タリンが1、2位を占めていたのだ。だが、和久井が加入したJKノーメ・カリュは改革1年目にリーグ2位に割って入った。惜しくも優勝には手が届かなかったが、リーグの勢力図を変えたのだ。

 想像してほしい。例えば、スペインでレアル・マドリーとバルセロナを押し退け、トップ2に入ることがどれだけすごいことなのか。和久井はサッカーエリートではない。だが、彼がこれまで得た経験は、近い将来、日本サッカー界に反映されるものだし、なによりエストニアで獲得したタイトルと残した実績はプロとして胸を張れるものだ。

 2月で30歳を迎えた和久井は、選手として最も脂がのった時期に差し掛かっている。だからこそ、「CL予選で結果を残したい」と意気込む。7月17日から始まる予選を勝ち抜き、ぜひCL本戦で戦う勇姿を見せてほしいものだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。福岡県出身。大手出版社を経てフリーに。編集者として「年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「グアルディオラ総論」(ソル・メディア)などの書籍制作に幅広くたずさわり、文筆家としてジュニアを専門に「サッカー×教育」で執筆活動を行う。地域のサッカークラブ・スクールのコンサルタントを務め、地域創生活動を始める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント