男子バレー福澤の意識の変化=エースへと成長させる決意と柔軟さ

米虫紀子

選択肢を広げるためのスパイク改造

スパイクの改造に着手した福澤は、ワールドリーグでも実践。プレーの柔軟さを発揮しつつある 【坂本清】

 意識を変えた福澤は、次に技術面の改造に取りかかった。一番大きかったのは3歩助走を1歩助走に変えたことだ。今年のV・プレミアリーグ終盤、福澤はこう手応えを語っていた。

「以前はめいっぱいコートの外に開いて、上がったボールに飛びついていく感じの助走だったので、なかなか融通がききませんでした。でも助走を1歩に変えたことで、ギリギリまでトスや相手ブロックの状況を見てから、パッとボールの下に入って打つことができる。状況判断をする時間ができたことで、うまくリバウンドを取れたり、タイミングをずらしてかわしたり、選択肢が広がりました」

 そうしてつかみ始めた“柔軟さ”を今回のワールドリーグでも発揮した。

 スマートバレーを掲げるチームの影響や、トスのスピードが昨年よりも遅くなったこともあり、「今まで狙っていなかった決め方ができたり、さらに新しい選択肢が今大会で増えた」と福澤は語った。オポジットの清水邦広(パナソニック)が足首の手術のため、今大会に招集されなかったこともあり、福澤に2段トスが上がる場面は増えたが、福澤のスパイク効果率(全打数のうち、スパイク決定本数から被ブロックとミスの数を差し引いた本数の割合)は約35パーセントで、相手が違うため単純に比較はできないが、昨年のワールドリーグより7パーセントアップした。

チームメートも評価する福澤の変化

 加えて、福澤の一番の武器であるパイプ攻撃(コート中央部分からのバックアタック)では、チーム一のジャンプ力を存分にいかし、胸のすくようなスパイクを相手コートにたたきこんだ。6月15、16日の小牧大会のフィンランド戦ではセッターの近藤茂(東レ)とのコンビが合い、パイプ攻撃が機能したことで、全体の攻撃がスムーズになり、チームが軌道に乗った。日本が連続失点を喫し、悪い流れになっていたところを福澤のパイプで断ち切るという場面が、カナダ戦でも幾度もあった。パイプという1つのよりどころができたことで、トス回しが楽になったと近藤は言う。

「流れが悪くなっても、福澤がしっかり打って決めてくれるので自分たちの流れに戻せる。その1本があることで、自分も立て直しがきくし、チームとしても立て直せます」

 昨年の全日本でもともにプレーした近藤は、今年、福澤の姿に大きな変化を感じている。

「勝負強くなったというか、本当にチームの柱になれる選手になったのではないですかね。本人もそうなろうと意識していると思う。苦しい場面でどんどんトスを呼ぶし、頼もしいです」

 主将の山村宏太(サントリー)も、「チームを背負って立っているという自覚が見えるし、そういう声かけもしている」と評価する。

課題を改善し今年1年で道筋を作りたい

 とはいえ、福澤自身が描く理想像にはまだ遠い。状況に応じた打ち方にしても、まだ「できているときと、できていないときがある」と言うように、もろさが顔を出すこともある。

 カナダ戦では、今大会対戦したほかのチームよりも高さと組織力のあるブロックに苦戦した。体をひねってストレート方向に巧みに打ち、3枚ブロックからブロックアウトを奪ったかと思えば、ミスや被ブロックを連発した場面もあった。

「まだまだ甘いです。カナダは穴のないブロックだったので、指先やストレートなど、もっと細かいところを狙う技術が必要。リバウンドを取る時も、相手は手首を返してはたき落としてくるので、安易に当てるのではなく、当てる場所までしっかりつめて考えないといけない。今後、上のレベルのチームと当たれば、ああいう高さのあるブロックと対戦することになるので、もっと精度を上げていかないといけない」と課題を見据える。

 さらに、福澤の仕事は攻撃だけではない。今大会はサーブの安定感を欠き、サトウ監督が取り入れようとしている新たなサーブレシーブのフォームもまだ自分のものにはなっていない。それでも、新体制スタート時に「新監督のもと、今まで自分が持っていた固定観念を一度ゼロにして、新しい事にどんどんチャレンジしていきたい」と語っていた通り、取り組んでいることを信じて前向きに進んでいる。4年間の五輪サイクルの初年度である今年は、新しいことを試せる年だ。

 ただ、福澤は「悠長なことは言っていられない」と表情を引き締める。

「たぶん今年1年で道筋を作れなかったら、また(五輪に)間に合わなくなってしまう。だから様子見じゃなくて、少しでも早く吸収しないと」

 もう、五輪出場を逃した昨年のような思いはしたくない。その決意が、エースを突き動かす原動力になっている。

<了>

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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