男子バレー福澤の意識の変化=エースへと成長させる決意と柔軟さ
初の国際大会は厳しい船出
ワールドリーグでプールC最下位に終わった日本。課題が見えた大会だったが、日本の得点源でもある福澤には、ある変化がうかがえた 【坂本清】
チームが始動してすぐに開幕したこの大会で、やろうとしていたことは明確だった。例えば相手ブロックが複数ついても簡単にシャットアウトされずに点数に結びつける攻め方や、コート中央からの攻撃の機能といった今大会で重視したテーマがクリアできているかどうかが、試合の流れを左右した。
今後はその精度と安定性を高めていくとともに、サーブやサーブレシーブ、ブロックや、勝負どころでのつめの甘さなど、ほかの多くの課題に着手しなければならない。
プールCの最下位に終わったチームの中で、福澤達哉(パナソニック)が全体5位の184得点を挙げ、スパイク決定率50.00パーセントでベストスパイカーズランキング6位に入る活躍を見せた。昨年までの福澤は、相手ブロックがそろったときにリバウンドを取って攻め直したり、相手の嫌がる場所に落とすといった、臨機応変に相手をいなすようなプレーを苦手としていた。スパイク決定率は高いが、ブロックに囲まれた場面で無理に勝負にいき、ミスやシャットアウトされる場面も多かった。
しかし、今年は被ブロックを減らし、相手ブロックを利用してブロックアウトを奪ったり、リバウンドや相手のウィークポイントに返して味方のチャンスにつなげるプレーが増えた。それは新監督の掲げる「状況判断に優れたスマートなバレー」の実践だが、福澤が変わったきっかけがサトウ監督就任かというと、そうではない。
転機は昨年のロンドン五輪にあった。
トッププレーヤーとの差を実感したロンドン五輪
「逃げる、ということが苦手なんです。余裕がなく、メンタルのギリギリのところでやっているから、1度逃げに入ったら、そのワンプレーによって、ギリギリで保っていたメンタルが堰(せき)を切ったように崩れてしまうのではないかと、びびっています。相手の裏をかいたりして遊べる選手というのは憧れる理想のタイプなのですが、自分がそれをやったときに、今度は勝負できる場面でも逃げてしまうのではないかという不安が大きい。特に調子が悪いときに、そこの部分まで持っていかれると、もう立ち直れない。最後の砦みたいなものなんです」
学生時代は絶対的エースとして、豪快にスパイクをたたきこみ、チームを勝利に導いてきた。ブロックの上からスパイクを打ち込む爽快感や、自分が勝負しなくて誰が勝負するんだという自負もあっただろう。ただ、世界が相手になると同じようにプレーしていては通じない。それをわかってはいても、なかなか染みこんだ意識を変えられずにいた。
それを、変えざるを得ないと観念させたのは、ロンドン五輪で目の当たりにした世界トッププレーヤーの姿だった。
日本は昨年のロンドン五輪に出場することはできなかったが、五輪期間中、福澤はパナソニックの仕事も兼ねて現地に1週間ほど滞在し、ブラジルのムーリオ・エンドレスや米国のウィリアム・プリディら、世界のアウトサイドプレーヤーを目で追い続けた。そしてコートの外から冷静に見た彼らのプレーが、福澤の考えを変えさせた。
「世界で勝っているチームのサイドは、ミスがなく、勝負をするかしないかの選択など、状況に合った最善の策を瞬時に判断していて、そういう使い分けができるプレーヤーこそがトッププレーヤーなんだなと感じました。その点、自分のプレーを思い返してみると、あまりにも選択肢が少なかった。それまではずっと、『勢いと思い切りの良さが自分の持ち味です』と言って、それを押し通しすぎていた。実際に五輪を見て、現状の自分と世界のトッププレーヤーの差を直に比べることができたことは、思い切っていろんなことを変えていくモチベーションになりました」
ようやく、真っ向勝負するだけでなく、リバウンドも勝つための選択肢の1つだと思えた。