長友佑都、イタリア戦で見せた誇りと意地=再確認した日本が目指すべき方向性

元川悦子

効果的な崩しを見せた左のホットライン

ドリブル突破を見せる長友(白)。ブラジル戦とは違い、本田、香川を含めた左のホットラインはうまく機能していた 【Getty Images】

「僕はセリエAでやっているし、ほとんどの選手を知っている。日本人としての誇りもプライドもある。この1試合に懸ける思いは誰よりも強い。自分たちらしいチャレンジして絶対に勝ちたいし、イタリアの本気を見てみたいですね。長友という日本人を取って良かったとセリエA全体に思ってもらえるようなプレーをしたいと思います」

 19日のコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)第2戦・イタリア戦(レシフェ)が近づくにつれて、長友佑都の中ですさまじい勢いで闘争心が高まっていった。15日の初戦・ブラジル戦(ブラジリア)ではいいところなく0−3で惨敗。「自分とダニエウ・アウベスは中学生とプロの差」と吐き捨てるほどの失望感を味わった。だからこそ、誰よりも熟知するイタリア相手に本来の自分を取り戻し、日本人の意地を示したいという気持ちが強かったのだろう。

 時折、スコールのような大雨の降るレシフェのアレナ・ペルナンブコでキックオフされた大一番。選手同士でミーティングを行い、意思統一を図って試合に臨んだ日本代表の出足はブラジル戦とは全く違っていた。開始早々の20秒に本田圭佑の右クロスに香川真司が反応。中央に飛び込もうとしたシーンを皮切りに、得点への姿勢を強く押し出した。

 イタリアの4−3−3の3トップはマリオ・バロテッリの1トップの背後にアルベルト・アクイラーニが陣取り、左寄りの位置にエマヌエレ・ジャッケリーニが入る変則的な形。長友と香川で構成する左サイドの対面は右サイドバックのクリスティアン・マッジョ1人になる。マッジョは途中からイグナツィオ・アバーテと変わったが、2対1の状況はほぼ変わらなかった。この数的優位を確実に制すれば、日本のチャンスが広がることを長友も理解していた。「監督からも左で崩して右に展開するように言われていた。僕と真司に圭佑が入ったりでうまく崩せた」と本人も言うように、「日本の生命線」と言われる左のホットラインが効果的な崩しを見せ、序盤から何度も敵を脅かした。

「自分を含めてまだまだ脆い」

 華麗なパスサッカーを標ぼうするチェーザレ・プランデッリ監督率いるアズーリ(イタリア代表の愛称)にボールを持たせず、チャンスを量産するという理想的な展開から岡崎慎司がGKジャンルイジ・ブッフォンに倒されてPKをゲット。本田の先制点が21分に生まれる。さらに右ショートコーナーからのこぼれ球を今野泰幸が拾って前に展開。これを受けた香川が巧みな反転から左足ボレーで2点目をたたき込む。この時間帯は長友も積極果敢にシュートを放つなど、チーム全体が勢いに乗りまくっていた。スタジアムの大観衆も日本の魅力的な戦いに色めき立ち、「ジャーポン」の大歓声が湧き起こる。日本のパス回しに合わせて「オーレ」のコールも送られるなど、雰囲気がガラリと変わった。

 そんな前半終了間際、前々からの課題であるリスタートからダニエレ・デ・ロッシにあっさりと1点を献上。ブラジル戦同様、後半開始早々にも失点を繰り返してしまう。吉田麻也の判断ミスから内田篤人がオウンゴールした2点目、セバスティアン・ジョビンコのシュートを防ごうとした長谷部誠がハンドを取られてPKを与え、バロテッリに決められた3点目と、イタリアの電光石火の逆転劇を見せつけられた。「チャンスがあるときっちり決めますよね。その精度が全然違う。セリエAでやっていてもそういう部分は日本と大きく違う。本当に詰めていかないといけないと思います」という長友の言葉に、強い危機感が表れていた。

 しかしながら、この日の日本はここで意気消沈してしまうひ弱なチームではなかった。再び猛攻に打って出て、イタリアのお株を奪う小気味いいパスサッカーで巻き返しを図る。そして遠藤保仁のFKを岡崎が得意の頭で豪快に押し込み、とうとう3−3に追いつく。長友自身も「この調子ならイケる」と手ごたえをつかんだに違いない。

 実際、本田の強烈シュートがブッフォンをかすめ、岡崎と香川がシュートを2度ポストとクロスバーに当てる決定機を作るなど、勝てるチャンスは十分あった。だが、そこで決め切れないのが今の日本だ。逆にイタリアは、デ・ロッシのスルーパスに抜け出したクラウディオ・マルキージオの折り返しにフリーで飛び込んだジョビンコが4点目をゲット。一瞬の隙を突いて勝ち越し点を手に入れた。「強豪のイタリアは内容が悪くても勝つ。勝つサッカーをする」と長友もしみじみ語ったが、その老かいさと抜け目のなさが、ワールドカップ(W杯)4回優勝を誇る大国ならではの強みなのである。

「4失点という事実はディフェンスの1人として僕も認めなきゃいけない。まだまだ脆いなというのは自分を含めて思うこと。結局、崩されているのは1対1や個々の部分。マークが外れたとか、寄せたのに入れ替わられたとか、半歩シュートに寄せるべきところに行けなかったとか……。監督もよく言ってますけど、相手より身体能力が低いんだから、先を読んで注意力を高めていくしかない」と彼は自戒を込めてこう言うしかなかった。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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