菊池雄星ついに覚醒!今季勝てる3つの理由

中島大輔

「ポーン、グーン、バチン」のリズム

渡辺監督(右)は今季の菊池に対して球の質、勝負できる球種の増加を評価している 【写真は共同】

 交流戦終了時点までにリーグ2位の7勝、同トップの防御率1.41と抜群の安定感を誇る菊池にとって、数少ない不安を露呈しているのが立ち上がりだ。今季はここまで11試合に先発しているが、6試合で初回に得点圏に走者を背負っている。そのうち、三者凡退に抑えたのは、いずれも完封を飾った4月13日の楽天戦と6月12日の中日戦のみだ。
 菊池自身、「立ち上がりに苦労することがある」と自覚している。その一方で崩れずに修正し、勝ち星を手にできているのは「感覚の調整」をうまくできているからだろう。

「立ち上がりにリズムの確認をしています。ポーンと振りかぶって、足をグーンと上げて、リリースでバチンと投げる。そのリズムを出せるように。試合によって体の感覚が微妙に違うので、すぐにその日の感覚をつかめるようにしています。特に初回は気をつけますね。ポーン、グーン、バチンの音さえあえば、後は大丈夫です」
 要は、自分に適した投げ方のコツをつかめてきたということだろう。頭で考える理想を、身体が自然と表現できるようになりつつある。そんな姿が炭谷には「のびのび」と映り、渡辺監督は「変なことを考えず、集中してバッターに対峙(たいじ)している」と見ている。

目標のふたケタ勝利…そしてその先へ

 指揮官は「真っすぐはもちろんだけど、勝負できる球種が増えた」と投球の幅が広がった点も評価する。スライダー、カーブに加え、今季の決め球になっているのがチェンジアップだ。
 ペナントレースが始まる1週間前にブルペンで投げてみると、確かな手応えを感じた。今季初戦の後には「ここまで投げられるとは思っていなかった」と語っていたが、惜しくも9回1死にノーヒットノーランを逃した6月12日の中日戦では、1点リードで迎えた6回に代打で出てきた山崎武司をチェンジアップで空振り三振に仕留めた。2011年8月、通算400号ホームランでプロ初完封を阻止された相手にリベンジできた瞬間だった。
「プロに入って、最初にコテンパンにやられたのは今も強烈に残っています。大先輩なので、認めてもらいたい気持ちがありますね。2年前と変わったところを見せたかった。あそこは点差どうこうじゃなく、個人の勝負にいきました」

 6球団から1位指名を受けた09年のドラフト会議でプロ入りし、迎えた4年目の今季。新球のチェンジアップを身につけ、「ポーン、グーン、バチン」のリズムで投げる左腕は昨季と比べ数段上のピッチャーへとレベルアップしている。
「来年から大学4年生がプロに入ってくるので、その前にもう一度、自分のポジションを確立するのが大事。同級生がプロに入ってくるまでに、ふたケタ勝っておくように」

 開幕前から目標に掲げていた10勝まで、残り3勝。この勢いなら、オールスター前に達成することも可能だ。本人は決して口に出さないが、当然その先も見据えているはずである。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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