日本代表に熱狂したレシフェの素敵な夜=交通アクセスの改善に見た成長

中田徹

日本を応援するブラジル人たち

スペイン対ウルグアイ戦後、ようやく乗り込んだバスから撮った車外のカオス。その3日後、バス乗り場周辺の観客誘導はしっかり改善されていた 【中田徹】

 吉田麻也の同点ゴールが決まったかと思いきやオフサイド……。「ああ」と落胆したのは日本人だけではなく、ブラジル人の観客もそうだった。日本代表は3−4とイタリア代表に敗れたものの、試合後のアレーナ・ペルナンブーコには「ジャーポン! ジャーポン!」の合唱が響いた。

 その興奮はスタジアムの外でも続いた。日本代表のユニホームを着た僕に対して「一緒に写真を撮ってくれ!」「一緒に写真を撮らないか!?」というブラジル人からのリクエストが延々と繰り返された。
「ブラジル人はイタリアの消極的なサッカーが嫌いなんだ。やはり日本のパスサッカーの方が見ていて楽しい」
 ファンのひとりは日本代表への熱狂について、そう説明してくれた。負けた悔しさはいつまでも残っているが、それでもなおレシフェの素敵な夜だった。

 この試合ではレシフェの町から、スタジアムへのアクセスが大幅に改善されていた。いまブラジルの新聞の一面トップは国中で広げられているデモだが、ここレシフェの地元紙では、アレーナ・ペルナンブーコとレシフェの町のアクセスがあまりにひどいことがスポーツ欄のトップで報じられていた。

 きっかけは16日のスペイン対ウルグアイでのアクセスが大混乱に終わったことだった。このアレーナ・ペルナンブーコはレシフェ市街から30キロ近くほどしか離れていないが、実際には森林地帯の中に建てられており周囲には全く何もない環境にある。スタジアムの公式サイトをチェックすると、動画で「鉄道、地下鉄、バスを使ったアクセスは便利!」とアピールしているが、実際には鉄道駅も地下鉄駅もできておらず、42,000人の観衆のほとんどはバスを使って地下鉄駅までピストン輸送してもらうしか手がなかった。それが失敗に終わった。

30分の時間短縮が示す成果

 例えば僕個人のケースを紹介すると、試合は夜21時に終わりバスに乗り込めたのが22時15分ごろ。スタジアム最寄りの地下鉄駅に着いたのが22時45分ごろ。レシフェ駅に着いたころには23時半になっており、タクシーでホテルに着いた時にはもう零時近くになっていた。「コンフェデ、アレーナ・ペルナンブーコと町の間のアクセスが全く機能せず」と地元紙は報じた。

 アクセス失敗の根は、バス乗り場が混乱したことにあった。スタジアムとバス乗り場の間は歩いて10分強ほどの距離だが、試合後は大行列ができるため1時間ほどかかってしまうが、それは我慢するしかない。しかし、その行列の先頭はしっかり整理されておらず、バス乗り場の周辺はカオス状態となっていた。すぐ目の前までバスは次から次へやってきたが、3つの扉に群衆が殺到し、力づくで進まないと目の前のバスを逃してしまう事態に陥った。超満員のファンを乗せたバスは山道を30分かけて地下鉄駅まで走ったが、僕も久しぶりに車酔いになってしまった。

 あれから3日後。試合後の観客たちは黙々と1時間かけてバス乗り場へ歩いて行った。しかし今回、行列の先頭はしっかり係員によって整備され、バス乗り場周辺に無人のスペースを作っていた。そしてバスがやってくる都度、先頭の人から順にバスへ乗り込ませる方式を採った。これが成功した。立たざるを得ない乗客もいたが、3日前のような超満員にはならず、バスは快調に山道を疾走。わずか10分強で地下鉄駅に到着した。この時点で22時15分。前回の22時45分から大幅な時短を達成したのだ。その地下鉄駅でまた、「ジャーポン! ジャーポン!」の合唱が始まっていた。

 コンフェデレーションズカップはプレワールドカップとして大会運営をチェックする場である。10年の南アフリカ大会ではボランティアたちがどんどん成長していったのを見ることができた。そして今回、アレーナ・ペルナンブーコというたったひとつのベニューのエピソードであるが、彼らが交通アクセスの改善を果たしたのを体感することができた。

 スアジタムからバス乗り場まで1時間並ばないといけない現況に変わりはない。ここに改善の余地はまだまだあるだろう。それでも目に見える成果を出した30分の時間短縮だった。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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