勇気あるプレーが勝ち取った収穫と課題=イタリア戦敗北は分岐点となるのか

宇都宮徹壱

祖国に向けたザックのプレゼンテーション

4失点を喫し、イタリアに敗れた日本(白)。この敗戦を機にまた新たなステージへと飛躍することはできるのか 【Getty Images】

 19日(日本時間20日)にフォルタレーザで行われたコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)第2戦ブラジル対メキシコの試合は、2−0でブラジルが勝利した。この試合も、まさにネイマールの独壇場。開始9分で鮮やかなボレーシュートを決めると、試合終了間際にも左サイドでDF2人をかわし、途中出場のジョーの2点目をアシストした。2連勝のブラジルは、この時点で準決勝進出が濃厚に。逆にメキシコは、イタリアとブラジルに連敗したことで、次の日本戦を前にグループリーグ突破が厳しくなった(※その後のイタリア対日本の結果により、ブラジルの決勝トーナメント進出とメキシコのグループリーグ敗退が決定)。

 メディアセンターで現地16時キックオフの裏の試合を見届けて、アレナ・ペルナンブコの記者席に向かう。ほとんど「工事中」と言っても差し支えないような、コンクリートとケーブルがむき出しのバックヤードを歩きながら、あらためてこのグループの厳しさを反芻(はんすう)してみた。昨年のロンドン五輪優勝メンバー9人を擁するメキシコは、決して弱いチームではない。初戦のイタリア戦でも、ほぼ互角の戦いを見せていた。しかし終わってみれば、ブラジルもイタリアも、タレントの個の力によってメキシコをねじ伏せている。この日の試合で、日本はどれだけイタリアに対抗することができるのだろうか。

 このイタリア戦に臨むにあたり、監督のアルベルト・ザッケローニは「いつもの11人」を送り出した。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、長友佑都。MFは守備的な位置に長谷部誠と遠藤保仁、右に岡崎慎司、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そして1トップに前田遼一。指揮官としては一切の奇策を用いず、いつもの日本のサッカーをストレートにぶつけるという決断を下したようだ。それはすなわち、この3年間の日本での仕事を披露する、祖国イタリアへのプレゼンテーションと見ることもできよう。

 そして選手たちからは、前日練習終了後のミックスゾーンで、事あるごとにブラジル戦でチャレンジできず、消極的なサッカーに終始してしまったことを悔やむ声が聞かれた。そして次のイタリア戦では、このチームのテーマである「勇気とバランス」を取り戻すことを誓っていた。指揮官にとっても、そして選手たちにとっても試される舞台。それが、ここレシフェで行われるイタリア戦であった。

勇気ある仕掛けで勝ち取った3ゴール

日本の勇気あるプレーはスタンドにいたブラジル人の心をわしづかみにした。会場のアレナ・ペルナンブコは完全に日本のホームとなった 【宇都宮徹壱】

 試合については周知のとおり、3−4で日本は敗れた。とはいえ、同じ敗戦でも先のブラジル戦と比べれば収穫も課題も明確となったという意味では、非常に意義のある敗戦であったと言えよう。そもそも前半40分まで、日本がイタリア相手に2点もリードするという展開など、いったい誰が予想できただろうか。しかし一方で、回避できた失点シーンもあったことを思えば、試合のスリリングな展開を楽しめたと同時に、実に悔やまれる内容であったとも言える。ここでは日本の得点と失点を切り分けて、収穫と課題を振り返ってみることにしたい。

「(試合の)入り方は良かったと思いますね。テンポよく回せましたし、プレスの掛け方も高い位置からうまくハメられたと思うので」(遠藤)

「みんな、自信を持ってサッカーができていた。チームとして、みんなが前を向いてサッカーをしていた」(岡崎)

 これらのコメントからも明らかなように、前半の日本は勇気を持ってイタリアに挑んだ。ミスを恐れず攻めのパスを展開し、そして積極的にシュートを放つ。確かに、1日休養が少ないイタリアは、コンディション的で不利な面もあった。だがフィジカル以上に、日本はメンタル面でのリカバリーがしっかりできていたことが幸いした。そして、決して諦めることのないチャレンジする気持ちと、連動性と厚みのある攻撃が機能したことで、日本は前半21分と33分に連続ゴールを挙げる。前者はデ・シリオのバックパスを岡崎が諦めずに追いかけたのをきっかけにファウルを誘発。PKをもぎとった。後者は相手のクリアを今野がすぐに押し込んだことで香川の目の覚めるような反転ボレーによるゴールが生まれた。

 その後、日本は前半終了直前と後半早々に、立て続けに失点を重ねてイタリアに逆転を許してしまう(これについては後述)。だが、そこで彼らが意気消沈することはなかった。後半24分、遠藤のFKに岡崎がニアサイドに走り込み、モントリーボに競り勝ってヘッドで決めた同点弾は、この試合のクライマックスと言えよう。この日本の「不屈」を絵に描いたようなゴールは、スタンドにいたブラジル人の心をわしづかみにし、アレナ・ペルナンブコは完全に日本のホームとなった。

 そして後半30分から40分にかけて、日本は完全に相手陣内でポゼッションを続け、イタリアのディフェンス陣は完全にドン引き状態になる。これまでもアジア予選でよく見られた光景だ。しかしながら、相手はアジアのチームではなく、ワールドカップ(W杯)優勝4回を誇るイタリアである。この瞬間、自身を「過去の人」と切り捨てるイタリアのメディアを、ザッケローニは見事に見返すことができたと言えるのではないか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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