勇気あるプレーが勝ち取った収穫と課題=イタリア戦敗北は分岐点となるのか

宇都宮徹壱

4失点も喫していたら強豪には勝てない

ザッケローニはこの敗戦に一体何を思うのか。収穫も課題もあっただけに、今後に期待したいところだ 【宇都宮徹壱】

 実際、日本の優位性はスタッツにも現れている。ポゼッションは日本55%に対してイタリア45%。シュート数は日本17(枠内11)に対してイタリア12(同8)。ブラジル戦での日本のポゼッションで37%だったことを思えば、驚異的な上昇である。にもかかわらず、日本がイタリアに勝てなかったのはなぜか。それはキャプテンである長谷部のこの言葉が端的に言い表している。

「4失点してしまった。そのうちの2失点は自分たちのつまらないミス、1失点は不運で、最後の失点は集中しないといけないものだった。細かいところを突き詰めていかないと、勝てない」

 つまり「自分たちのつまらないミス」が防げていれば、日本が勝っていた可能性は極めて高かったということだ。そもそも、伝統的に守備が固いイタリアに対し、3ゴールを挙げるということは並大抵のことではない(イタリアが最後に3失点以上を喫したのは、昨年のユーロ2012決勝のスペイン戦。スコアは0−4だった)。逆に言えば、4失点をするようなチームでは、W杯で欧州の強豪には絶対に勝てないということだ。

 最初の失点は前半41分だった。ピルロのコーナーキックに、デ・ロッシが走り込んできて、長谷部に競り勝ってヘディングで決めたシーン。決めたデ・ロッシもさすがだが、日本の守備が整う前にキックしたピルロの抜け目のなさが際立っていた。この時、日本の選手はイタリア相手に攻め続け、しかも2点リードという望外な展開に、かえって浮き足立っていたように感じられた。そして、どこかで選手たちの集中力も途切れていたのかもしれない。この時、ニアサイドにいた遠藤が、ほとんど突っ立っているように見えたのも、要するに「準備ができていなかった」ことの証(あかし)ではなかったか。

 そして次の失点は後半5分。ジャッケリーニと吉田のゴールライン際の攻防で、クリアか体を入れるかで躊躇(ちゅうちょ)した吉田がかわされ、折り返したボールがカットに入った内田の足に当たってオウンゴールになってしまう。その2分後、長谷部のペナルティーエリア内でのハンド(実に微妙な判定だったが)によるPKでの失点を挟んで、後半41分には今野のクリアミスに端を発する決勝点をイタリアに献上。吉田と今野という、日本を代表するセンターバックでも、やはり1試合をノーミスでクリアするのは難しい。しかし、そのわずかなミスを確実に突いてくるのが、世界の強豪国なのである。

次のメキシコ戦で望む出番の少ない選手の起用

「ブラジル、イタリア、メキシコを相手にミスをすると、得点を奪われる。(中略)来年のW杯までにはそのような強豪国とのギャップを埋めていかなければならない。チームは成長しているし、良くなっているので、このギャップを埋めることが、私にとってもチームにとっても大きな課題だと思う」(ザッケローニ監督)

 結局、指揮官のこの言葉に尽きるのではないか。この3年続けてきた、組織的な連動性によるポゼッションサッカーという方向性そのものは、世界を相手にある程度は通用することが、このイタリア戦で証明されたと見ていいだろう。問題は、その精度。今回は守備面でそのほころびが目立ってしまったが、それは前線においても「得点力不足」として現れている。今大会において、あらためて浮かび上がった課題として、この「プレーの精度を上げること」が第一に挙げられよう。

 そしてもうひとつ気になったのが、ザッケローニのさい配。後半28分の「内田OUT/酒井宏樹IN」も、後半34分の「前田OUT/マイク・ハーフナーIN」も、そして後半45+1分の「長谷部OUT/中村憲剛IN」も、いずれもその意図については首を傾げてしまった。もっとも、このカードの切り方には、今の日本のベンチに有効な切り札やバックアッパーがいないことの証左と言えるのではないか(もちろんこれは、ザッケローニ自身によるメンバー固定化の弊害であることは言うまでもないが)。

 かくして日本は、第3戦のメキシコ戦を待たずしてグループリーグ敗退が決まった。それでも、このイタリア戦を終えた時点で、収穫と課題が明確になったことについては、大きな意義があったと思う。収穫は、これまでの方向性自体は決して間違っていなかったこと。そして課題は、プレーの精度(集中力の持続を含む)と選手層である。

 ゆえに後者に関連して、まずは次のメキシコ戦で、これまで出番のなかった選手たちを中心にスターティングイレブンを組むべき、というのが私の考えである。このコンフェデ杯での経験を、一部の選手だけのものにするのではなく、広くメンバーで共有することで、日本代表は次のステップを踏むことができるはずだ。そして精度に関しては、今後1年の有意義なマッチメークに期待するしかない。いずれにせよ、このイタリア戦から本大会に向けた日本代表のリスタートが始まることを、切に願う次第である。

<了>

※明日のコンフェデ通信は移動のため休載とさせていただきます。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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