不完全燃焼を続けるフランス87年組=さまよう黄金世代に開花の時は来るか

木村かや子

メネズが反感を覚えるのはメディアに対して

移民系ではないものの、批判を浴びるメネズ。内気な性格ゆえにメディアのバッシングを嫌うのかもしれない 【Getty Images】

 最後に、メネズのケースもまた、ほかの3人とはやや種を異にしている。この中で唯一白人系フランス人の彼は、「移民系三世の問題」にはあてはまらないのだが、「態度の悪い今どきの若者」という目で見られがちだ。実際、彼の態度はかなりふてぶてしく、記者に声をかけられてもまず足を止めない。また頻繁に、先発できないことへの不満を顔に出しもする。

 とはいえメネズの場合、越えてはいけない一線を越えてはいない。ユーロ2012の際に彼もまた、ナスリらとともに協会から出場停止を申し渡されたのだが、彼がやったのは、審判に文句を言った、というだけのこと。罰されるほどの悪さはしておらず、のちに本人が言ったとおり、「傲慢(ごうまん)な若者に制裁を、という風潮の中で、スケープゴートにされた」感は強いのだ。中には、罰されるのが移民系だけでは人種差別と言われかねないため、あえて白人のメネズを混ぜたと言う者もいる。

 一方、プレー面ではベンアルファと同様に「自分で行く」という姿勢が強く、ドリブルでボールを持ちすぎてチャンスをつぶすことも少なくなかった。ローマではそれゆえチームメートや監督をいらだたせていたと聞くが、反面、途中投入された際にはそのスピードで相手をかく乱する力を見せている。ボールをキープしすぎる点に関しては、一心不乱すぎて周りが見えないという能力的問題も関係している、と考える専門家も少なくない。

 メネズもまた、ソショーにいた若手のときは、シャイで初々しい少年というイメージだった。彼が現在のようにふてぶてしくなったのは、おそらくモナコに行ってから。一部の者は、彼が反感を覚えているのはメディアに対してなのだ、と信じている。実際、メネズは代表仲間に比較的好かれており、クラブでも、スタメンでないことへの不満こそにじませているが、特に仲間との問題を抱えているようには見えない。

 一度、ソショーで10代だったメネズが初めて大活躍したとき、試合後のテレビ・インタビューで目を伏せて話す彼に、女性アナウンサーが「あなたのような才能ある人が、目を伏せてどうするの。ちゃんとテレビカメラを見なさい」と言ったことがある。初インタビューでシャイな若手が緊張しているだけなのに、随分ときつい女だ、というのが正直なところだったが、元来内気である彼が、ちょっとつまずけば叩くメディアに嫌悪感を覚えるようになった、というのは十分に考えられることだ。

才能の開花は彼らの精神的成長次第

 結局のところ、根底にある問題は、彼らが期待されていたほどの開花を遂げていないという点に起因する。そして、彼らの成長と開花を阻んでいるのが、若くして天才とたたえられた者の傲慢さだという可能性も、ないわけではない。

 しかし、安定性を欠きながらも、ナスリ、ベンアルファはいいパフォーマンスを見せ始めており、ベンゼマもポジションのライバル、ゴンサロ・イグアインが移籍しそうな今、来季にリズムを取り戻す可能性はある。またメネズがPSGの優勝に果たした貢献も、決して過小評価すべきものではない。

 大開花しないまま散るか、これから真のブレークを果たすか。それは今後の彼らの精神的成長次第かもしれない。早咲きだったホープが、実は遅咲きとなることも、十分にありえるのである。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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