楽天助っ人マギーの魅力 選手、人間、父としての姿
チームに多大な好影響を与える新助っ人
打者としての活躍はもちろん、人としての魅力が光る楽天マギー(右)。写真は5月22日、7勝目を挙げた田中とお立ち台に立つマギー 【写真は共同】
「紳士的」「誠実」。彼と接するすべての人が彼の印象を聞かれると、まずこう答える。
「彼」とは東北楽天の新外国人選手ケーシー・マギーである。
昨季、67勝67敗(10分)でパ・リーグ4位に終わった楽天。今季、就任3年目を迎えた星野仙一監督は、「だめなら腹を切る」と今季を勝負の一年と位置付け、悲願の初タイトルに向けて大型補強を敢行した。
楽天は、昨季の総得点が491でリーグ4位。チーム本塁打にいたっては52本と12球団最低だった。課題だった得点力、長打力不足を克服すべく、今季はメジャーで輝かしい実績を誇るマギー、ジョーンズの両外国人助っ人を獲得した。
迎えた2013シーズン開幕。当初は投手陣が安定せず勝ち星を伸ばせなかったが、そんなチームの中で、6番(牧田明久の離脱後は代わりに5番)に座ったマギーはヒットを量産。打率は4割を超え、首位打者を独走する。5月に入ってやや調子を落とすも、投手陣と4番のジョーンズの調子が上がってきたのと同時にチームも上昇気流に乗り、5月を16勝7敗と大きく勝ち越した。
今季の楽天打線を引っ張るのは、紛れもなくマギー、ジョーンズの両助っ人である。すでにふたりの存在は、周囲にさまざまな好影響を与えている。
「後ろにマギーとジョーンズがいるから、つなぐことに集中できる」とは、今季3番としてすっかり定着した聖澤諒。昨季の盗塁王はここまで10盗塁とリーグ4位(6月5日時点)だが、「盗塁の数は気にしていないし、3番として一発を狙うよりも、まずは出塁してピッチャーを苦しめることが大事」と語る。裏を返せば、出塁さえすれば無理に二塁を盗まなくても4番、5番がホームにかえしてくれるという信頼感の表れである。さらには、足を使う負担が減ったことで、打撃に集中することができ、それが聖澤の打撃好調につながっているともいえる。
とはいえ、相手ピッチャーにとってみれば、足の速い聖澤が塁に出ると二盗を警戒せざるを得ず、次に打席に立つジョーンズに対してはおのずと慎重な投球になりやすい。選球眼に長けたジョーンズはそこで四球を選ぶことで得点圏にランナーが進み、続くマギーがタイムリーを放つ――これが今季の、楽天の得点パターンのひとつとなっている。また、たとえジョーンズを打ち取っても、後ろにマギーが控えているというのは、相手バッテリーにとっては脅威だろう。得点パターンが確立されているというのは、タイトルを取るチームの必要条件である。
「これまでの外国人選手とは雰囲気が違う」と開幕前に星野監督が話したように、ふたりの助っ人は、ここまで数字上の結果もさることながら、それ以上の脅威を相手チームに与えている。
プライドを捨て日本野球に適応
しかしマギーは、開幕前のオープン戦で打率が2割と苦しんだ。ここで実績十分の元メジャーリーガーは、毎日のように田代富雄・打撃コーチにアドバイスを求め、真摯(しんし)に日本野球と向き合った。
本人は詳細こそ明かさないが、打席に入ったときの気持ちや課題、相手投手の特徴などをつづった「マギーノート」があるという。文頭でも触れた「誠実」というマギーの人物像を表す言葉には、こういった野球に取り組む姿勢からもきている。大物助っ人が来日すると、プライドから我流を突き通し、日本野球になじめないまま期待を裏切るということが往々にして起こるが、マギーにそれは当てはまらない。逆に必死に日本野球に適応しようと日々努力する姿は、日本人選手にとってもこの上ない見本となっている。
父親として強くありたい――
マギーは、全米脳障害連合のメンバーとしても活動している。09年、マッケイル君が連合代表として始球式を務めた試合で、代打本塁打を放ったというのは有名な話だ。その他、チャリティーマッチを開催するなど、積極的に脳障害と闘う人々のサポートを続けている。
彼の野球に対する真摯な姿勢は、「マッケイルの父親として強くありたい」という息子への思いを体現する、最も重要な手段ひとつなのかもしれない。
まだシーズンが開幕して2カ月余りだが、一野球選手としてだけではなく、ひとりの人間としても楽天史上、最も愛される外国人助っ人になる可能性を秘めているマギー。現在、球団史上初のタイトル獲得に向けて、チームは交流戦の首位争いを演じている。長年、「野球不毛の地」とされた東北だが、悲願の達成にこの男の活躍は欠かせない。
<了>
(佐藤哲也/ベースボール・タイムズ)
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