世界記録保持者・山口観弘の深まる苦悩=求められる水泳に対する意識改革

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北島の後継者と騒がれるプレッシャー

北島(写真)との比較は今後もついて回る。そこを乗り越えられるかが、成長へのカギとなるだろう 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 山口にとって、北島という存在もプレッシャーになっているのかもしれない。平泳ぎは長年、北島という絶対的なエースが君臨していた。アテネ、北京と2大会連続で五輪の100メートルと200メートルの2冠に輝いた偉大な先輩を、山口は「あこがれの選手」だと語る。いくら年齢的な衰えがあるといっても、山口にしてみれば北島はまだ見上げる存在だ。しかし、世界記録を出したことで北島の後継者として騒がれ、周囲も北島に勝つことを求める。一緒のレースに出場すれば「北島の存在は意識したのか」と問われた。4月の日本選手権、今回のジャパンオープンと100メートルで続けて北島の後塵を拝したが、レース後に2回とも同じ質問を受けている。山口はこう語気を強めた。「あれだけ大きな存在ですし、意識するなという方が無理です」。

 もちろんいつかは超えなくてはいけない壁だ。ただ、あまりにも性急に周囲の状況が変わったことで、山口自身がその変化に対応できなかった。ほんの1年前、山口は次代を担うホープに過ぎなかった。北島が持っていた高校記録を塗り替え、200メートルでジュニア世界選手権を制し、昨年の五輪選考会では北島、立石諒(ミキハウス)に続く3位に入っている。派遣標準記録を切っているだけに、五輪に出場する実力はすでについていた。もっとも、本来はロンドン五輪で北島を破り、200メートルで銅メダルを獲得した立石が後継者の位置に一番近かったはずだ。それが世界記録を出したことで一気に変わってしまった感がある。

メンタルをどう改善していくか

 日本選手権では、100メートルこそ北島に敗れたが、200メートルでは派遣標準記録を切り、見事に初優勝を飾った。日本代表にも選ばれ、7月にバルセロナで開催される世界水泳の出場権も勝ち取っている。大きな舞台ではきっちりと結果を残した。2分09秒31という記録に対しても、「これがいまの僕の実力です。世界記録を出したときの僕は神懸かっていたというか、実力以上の結果が出てしまっていたんだと思います」と謙虚に語り、安堵(あんど)した表情を見せていた。

 ジャパンオープンにしても、200メートルに関しては終盤までトップを維持していた。最後は失速してしまったが、100メートルや50メートルに比べれば内容にも納得がいったようで、「できることはすべてやった」と、B決勝進出という結果にも、割り切っていた。本人なりに復調への手応えはつかんでいたようだ。

 練習での泳ぎは悪くない。それは平井コーチも認めており、山口自身も感じている。細かい課題はあるが、あとは本番のレースに向けてどうメンタルを改善していくかがカギとなる。「とにかく練習をこなして自信をつけるしかないです。いくら心を強くしても、練習をしないことにはいざというときの力にならないので」。山口は、27日から始まる日本代表の合宿に目を向けている。

 平井コーチの下で共に練習する北島も、山口に期待を寄せている。
「一緒に練習をしていて、彼の意欲や向上心は感じている。もっと伸びる要素もあると思うし、強さもかいま見せている。大会の結果がすべてじゃないし、一緒に練習しながら高めあっていきたい」

 世界記録は決してフロックではなかったはずだ。「実力以上の結果が出た」と山口は言うが、それに近い能力がなかったら、この偉大な記録は生まれていないだろう。世界水泳まであと2カ月。この短い期間でどこまで調子を上げられるか。今後の成長を占う意味でも、真価が問われることになる。

<了>

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