快進撃を続ける柏のアジア制覇の可能性=ACLでの戦いを最優先するチーム戦略

鈴木潤

昨年との違いは“アジアの頂点”という目標

柏が敢行した大型補強の中で、現時点でのレギュラーはクレオ(右)のみ。ほかのメンバーが台頭することによって、チーム力もさらに上がることだろう 【Getty Images】

 ホームゲームはサポーターがスタジアムの雰囲気を作り上げてくれるため、おのずとテンションも上がり、比較的結果の出やすい環境下で試合ができる。だが、だからこそACLを勝ち抜くためにはいかにアウエーで結果を残せるかがポイントとなる。そういった点も昨シーズンの経験から学んだものだ。データの少ない相手に対し、アウエーの地でどう戦い方をイメージして、どのような精神状態で試合に臨むか。経験という裏付けからそういったコントロールが可能になった柏は、昨シーズンわずかに1勝しか挙げられなかったアウエー戦において、今シーズンは4戦4勝と見違えるような強さを発揮している。

 ネルシーニョ監督は「2年連続で出場しているのは重要なファクター」と経験値の大きさを公言する一方、「ただ参加するだけのACLではなく、はっきりと目標を持って臨んだことがこういう結果につながっている」と目標の部分でも昨年とは大きく違うことを指摘している。その「目標」こそ、“アジアの頂点”だ。

 昨シーズンのACLでは、柏は蔚山現代FCに2−3で敗れ、初のアジア挑戦はラウンド16で終わった。試合内容では五分五分、いや、後方からハイボールを蹴り込みパワープレー一辺倒の蔚山現代に対し、内容的には柏の方が若干ではあるが上回っていたかもしれない。長年柏というチームを取材してきたが、この蔚山現代戦ほど、選手たちが悔しさをあらわにしたことはなかった。相手より内容で上回ったとしても、負けてしまえば内容など何の意味も持たない。それを痛烈に味わい、しかも紙一重で自分たちを破った蔚山現代が、その後アジアの頂点に立ったことが選手たちの悔恨の念をよりいっそう募らせた。「自分たちがあの舞台に行けたかもしれない」。その結果、ACLの優勝を現実的な目標として意識するようにもなった。1年前、蔚山現代に敗れた時に、増嶋竜也は「今度はあのサッカーには絶対に負けない」と、ハイボールを多用したパワフルなサッカーへのリベンジを誓った。優勝への強い思いや、アジアの戦い中で味わった様々な感情が、今シーズンの柏の快進撃を生んだ源になっている。

ACLの反動で低調な出来のJリーグ

 ただ、ACLとは対照的にJリーグでは第12節終了時点(※柏はACL出場のため1試合消化が少ない11試合)で10位と、今一つ波に乗れていない。選手たちはACLもJリーグも、同じように高い意識を持って臨んでいるつもりだし、ターンオーバーを敷いて選手を入れ替えているわけではないため、はたから見るとこの成績の落差には思わず首をかしげてしまうところだ。

 アジアのタフな戦いを制するためには、想像以上のエネルギーが必要になる。ミッドウィークに行われるACLの激しい戦いによって、肉体的にも精神的にも疲弊してしまえば、それが大きな反動となって週末のJリーグのパフォーマンスに表れてしまうのは仕方のない面もある。したがって決してJリーグを軽視しているわけではないが、ACLのリバウンドが生じてパフォーマンスに大きな差が出てしまうことは、裏を返せばACLにそれだけのプライオリティーを置き、本気で「アジアを取りにいく」という柏の強い意識の表れと見ていいのではないだろうか。

 ではベスト8入りを果たした柏のACL優勝の鍵はどこにあるのか。それは6月の中断期間にかかっていると見ている。冒頭でも述べたように、今オフの柏は大型補強で選手層に厚みを持たせた。だが、現時点でレギュラーを獲得したのはクレオのみで、鈴木、狩野、谷口、キム・チャンスらは、要所で存在感を発揮して勝利に貢献しているとはいえ、まだ期待通りの活躍を見せるには至っていない。また、開幕から負傷で離脱している澤昌克、橋本和といったレギュラークラスも中断期間中には戦列に戻るとされており、故障を抱えてプレーしているレアンドロ・ドミンゲスも試合のないこの時期に傷を癒やし、万全のコンディションで調整ができるはずだ。

 6月にはキャンプを張ることが予定されている。けが人が復帰して戦力が整い、なおかつ新戦力が今まで以上にチームにフィットすることで、チーム力を飛躍的に向上させることはできるのか。それをクリアできさえすれば、クラブ史上初、そして日本勢としては2008年のガンバ大阪以来5年ぶりとなるアジア制覇も、現実味を帯びるだろう。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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