山本隆弘が明かす重圧と戦った現役生活=バレー界けん引したスーパーエースの引退

米虫紀子

背負い続けた“五輪”の重圧と責任

良い思いも苦しい思いもあった全日本での日々。エースへのプレッシャーは計り知れないものがあったようだ 【坂本清】

――現役生活で特に印象に残っていることは?

 07−08シーズンのV・プレミアリーグで初めて優勝を味わえたことは、すごく印象に残っていますし、五輪予選の3大会すべて、印象に残っています。

――全日本や五輪最終予選では、良い思いも苦しい思いもされたかと思いますが

 オポジットが僕1人という時期もあって、勝っても負けても「山本山本」と言われていたこともありました。何をやっても自分にかかってくるなら、自分が納得いくプレーをした方がいいなと考えましたね。04年のアテネ五輪を逃して、その中で一番責任を感じなきゃいけないポジションでしたから、08年の北京五輪出場を決めた時というのは、やっと責任を果たすことができたということで、うれしさよりも、とにかく安堵(あんど)感の方が強かった。その気持ちは今でもすごく印象に残っています。

――苦しんでようやくたどり着いた北京五輪は、どんなものとして残っていますか?

 うーん……五輪本番に関しては、試合のなかの思い出というのはまったくなくて、ただ自分たちのやるべきことができずに全敗してしまったということしか残っていません。あの時は最終予選にピークを持っていった分、五輪に合わせることができなかった。みんなが浮かれてしまっていたんじゃないかなという印象ですね。それでもやろうやろうとはしていたんですけど、歯車がかみ合わなかったというか、チームが1つになれずに大会に入ってしまったかなと思います。

荻野の一言で、こらえきれず涙

一度代表から離れながらも復帰したロンドン五輪最終予選。最後の思いを持って試合に臨んだ 【坂本清】

――その後、一度代表から離れながら復帰し、昨年のロンドン五輪最終予選にも挑みました

 北京後は代表のなかで最年長でしたし、中学時代から一緒にやってきた宇佐美(大輔)がキャプテンとして引っ張っていた。そのなかで、できる限りのサポートをしながら、自分のパフォーマンスもしっかり出せるようにコンディションを整えて臨みました。しかし、壁を破りきれなかったというのはすごく悔しい思いがあります。やはり最年長として、また経験者として、チームを五輪に連れていくことができなかったことにすごく責任を感じました。負けた時点で、僕はもう次の五輪はまったく見えてこなかったし、本当に、日の丸をつけて戦うのは最後だなという思いでしたね。

――最終日のイラン戦後、ミックスゾーンでは冷静に取材に対応していましたが、その後、荻野(正二/北京五輪全日本男子主将、09年に引退)さんの前で泣き崩れていた姿が印象に残っています

 バレてましたか(苦笑)。本当は人前では出したくなかったんですけどね。だからミックスゾーンでは耐えて耐えて、でもその後、荻野さんと朝長(孝介)に会って、4年前にともに戦った仲間と言葉を交わしたら、もう自分の感情を抑えきれませんでした。

――どんな言葉を掛けられたんですか?

 荻野さんは「お前よく頑張ったよ」と言ってくれて、その言葉がすごく響きました。でもやっぱり、自分が頑張ってもチームが勝てなかったら意味がない。自分に対する悔しさ、五輪に出場させることができなかったという責任感がすごくあったので……。泣きたくなかったし、人前で見せたくなかったんですけど、我慢の限界でした。
 ほかの国は見違えるほど強くなっていて、これからはそう簡単には勝てなくなるなと実感した大会でしたね。

山本が考える、日本に必要な戦い方とは

――今後は解説の仕事などもされるのですか?

 そういう話があればやりたいと思っていますし、バレーボールの普及活動は絶対にやっていきたいと思います。代表の試合は、仕事のオファーがなくてもたぶん見にいくと思うので、監督が変わってチームがどういうふうに変わったのかなとか、いろいろ見ていきたいなと思います。僕自身が「こういう風になったらいいな」と思っている部分と見比べて、どう違うのかなというものも見ていきたいですね。

――「こういう風になったらいいな」というのは?

 昨年、五輪最終予選の後、ワールドリーグに行って、ベンチに入っていない時にコートの外から日本と対戦相手を分析したなかで、いろいろ感じることがありました。身長や体格、パワーはやっぱり欧米に比べたら劣るので、そのなかで何をやらなきゃいけないか。サーブレシーブ返球率はハッキリ言って変わらないんですよ。日本も相手も50%くらい。ただその中で、他のチームに比べて、日本は真ん中のゾーンを使う攻撃が少ない。極端に言えば、サーブレシーブが返らなかった50%は、クイックを使えなくて、相手ブロックがサイドに走る状態になるわけですから、残りの50%のなかで、いかにサイドに負担をかけずに真ん中を見せられるかという部分が勝敗を分けるんだろうなと感じました。

 特にロシアなんかは、Bパス(少し精度の落ちるレシーブ)の状態でもクイックを使うし、クイックが使えなくてもパイプ(コート中央部分からのバックアタック)を絡ませる。でも日本は真ん中を使うことが少なく、サイドサイドになって、サイドがデータを取られて得意なコースを締められて、結局終盤に止められて負けるというパターンが多かった。サーブレシーブを(もっと高い返球率で)返せというのはたぶん不可能です。だから(理想的な)Aパスはもちろん、Bパスの状態で、いかにセッターとミドルブロッカーのコンビを確実に合わせるか。コートを3分割して均等に上げられるかが、今後の勝ちにつながる要素かなと思いました。日本の場合は身長、パワーがない分、いかに相手ブロックを動かすかがすごく重要になるので、パイプとクイックの絡ませ方も工夫が必要だと思います。

――例えばどういうことですか?

 国内でやっているような近いところでの絡ませ方だと、相手ブロックの手が残っていたり、二度跳びされたりするけど、一歩でも相手ブロックを動かせる状況を作れたら、展開がまったく変わってくると思います。例えば、ミドルをBクイックに入れた時にはライト側のパイプで幅をきかせる。逆にCクイックとレフト側に流したパイプ、というのも有効だと思います。なおかつ両サイドもあるという状況を作れば、(離れた4カ所から攻撃をしかけるため)少なくともブロックが2枚つくことはない。ワールドリーグでも最後のキューバ戦で、宇佐美に、こういうふうにやってみたら? と言って、宇佐美はそれを実践してくれたんですが、確かに相手ブロックが1枚もしくは1枚半になって、間も空いたりしていたので、これは使えるんじゃないかなとすごく感じました。そうやって相手ブロッカーが真ん中に寄るように意識付けしておけば、サイドは終盤楽になります。 

――なるほど。コーチに向いているんじゃないですか?

 いえいえ、無理です(笑)。口で言うのは簡単だし、これは僕なりの考え方なので、どこまで正しいかは分かりませんし。新監督は練習もいろいろなやり方を持っていると思うので、本当に、良い方向に変わってくれたらいいなと思っています。

<了>

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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