福島千里、五輪惨敗後も続く試行錯誤=日本女子初10秒台へ、目覚めた意識

高野祐太

高平の言葉から見える希望

1月には、白人で初めて10秒の壁を突破したクリストフ・ルメートル(右)と合同練習を行った 【写真は共同】

 その結果として、昨オフに取り組んだのは、一歩一歩を力強く踏み込むパワーを加えた走りだ。そのためにインナーマッスルなどを強化するフィジカルトレーニングを重点的に行った。スタートのクラウチング姿勢のときに、重心を後ろに引いて反動を付けるフォームも試した。
 ほかには、将来的な海外チームへの武者修行も念頭に置いている。11年テグ世界選手権のころから芽生えたこの考えは、ロンドン五輪を経て強まっており、白人で初めて100メートル9秒台に突入したクリストフ・ルメートル(フランス)の来日に合わせ今年1月に交流したときも、「こういうコミュニケーションの回数を重ねて、例えば一緒に練習するということにつながれば」と感じた。

 こうして、いろいろともがいているのだが、前述の通り、戦略は定まっていない。
「はっきりしないまま進んでいる感覚がある。どうしたいとか、決まっていることがない。どこを目指すとかも決まっていないから……」
 こうした事情を考慮すると、平凡だった今季のここまでのレースが「もっともっとダメダメな感じで初戦を迎える」ことにはならなかったことに、逆に何らかの復調の糸口が潜んでいると捉えることもできる。中村監督は「100パーセントではないが、本来の動きが戻りつつある」とほおを緩めたし、「弾むような走りが生まれ、切れが加われば11秒1台も出る」と予想する関係者もいる。

 「だから今いいんじゃないですか。(洛南高3年の桐生祥秀が織田記念で9秒台目前の10秒01を出して)男子に話題が集まって、(福島にとっては)伸び伸びとやれる状況が作れているし、それをどれだけうまく利用(してじっくり取り組むことが)できるかが、彼女のここから先のテーマなのかな。こんな面白くない競技はないからこそ難しいし、だからこそ達成したときの喜びがあるということを、どうにかして彼女は見つけていかないと。まだ(6月で)25歳。大したことないですよ」
 北京五輪銅メダルの男子400メートルリレーをけん引する重圧と向き合ってきた高平が語る励ましの言葉からこそ、福島の希望は見えてくるのかもしれない。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント