マドリーとバルサが喫した対照的な敗戦=S・ラモスとピケに見る両チームの差異
メッシ欠場にざわめきが起こったカンプノウ
バイエルンに惨敗を喫し、下を向くピケ。バルサはこの敗戦でいくつもの問題点が浮き彫りとなった 【Getty Images】
長きにわたり被支配の立場にあった歴史的背景からか、カタルーニャの人々は被害者意識が強く、悲観主義に支配されがちな傾向がある。0−4で敗れたCL準決勝第1レグの後、それまでほぼ満席だった第2レグのチケット購入サイトに多数の空席が出たのは、観戦を放棄した年間シートホルダーが自身の席を売りに出したからだった。
スタジアムに出向いたファンはもちろんいた。だが彼らが抱いていた奇跡の逆転への淡い期待心も、試合が始まる前になえてしまった。バルサ最後の希望、メッシの先発落ちを知ったからである。
試合前のメンバー発表。メッシの名が控え選手の1人としてアナウンスされると、スタンドが大いにざわめいた。この時点でエースの欠場を初めて知った観客も少なくなかったのだ。
動揺が収まる間もなく定番のアンセムが流れ、スタンドを埋め尽くした9万枚のモザイクの中央に「ORGULL(誇り)」の文字が浮かび上がる。だが皮肉にもその「誇り」は、その後の90分間でズタズタに引き裂かれることになる。
シュートどころかボールを前に運ぶことすらできず、奪われるたびに鋭いカウンターにさらされる。ピッチ上で繰り広げられたのは、ゴールチャンスはほぼ皆無、あるのは失点の恐怖だけという、第1レグと何ら変わらない絶望的な展開だった。
酷な仕打ちとなったピケのオウンゴール
「1994年のCL決勝でバルサがミランに0−4で負けていた時、7歳だった自分はロマーリオを見ながら逆転を信じていた。明日は子どもに戻り、常識を捨てるべき日だ」
前日会見でそう言っていたピケは、ピッチ上ではプジョルやマスチェラーノの不在を補うDFリーダーとして最終ラインを統率。脅威となったリベリやロッベンのスピーディーな突進を何度も阻んだ上、自らボールを持ちあがりゴールを目指す姿勢までたびたび見せた。
そんなピケの奮闘もむなしく、0−0で迎えた49分には勝負を決めるロッベンのゴールが決まる。この時点でスタンドは完全に沈黙。ほどなくビラノバ監督はシャビ、イニエスタをベンチに下げて白旗を挙げ、決勝進出どころかこの試合に勝つことすら放棄してしまう。
そして72分、左サイドを突破したリベリのクロスがピケの右膝に当たり、ゴールネットを揺らす。無念のオウンゴール。それはこの日誰よりも強く勝利への意欲を見せていた男にとって、あまりにも酷な仕打ちだった。
惨敗によって浮き彫りになった問題点
「スタートからファンとシンクロできるよう試みる必要がある。バルサファンは少し気まぐれで、チームとつながっていると感じている間しかサポートしてくれないからね。クレのネガティブ思考はいつものことだけど、逆転を信じられない人は信じる人に年間シートを譲ってくれ。俺たちには逆転を信じる9万人の後押しが必要なんだ」
彼の言葉通り、早い段階でメッシが先制点を決めたミランとの第2レグでは選手とファンが一体となり、相乗効果をもたらす素晴らしい雰囲気を作り出すことができた。しかし、今回はファンが逆転を信じられず、チームもスタンドに火をつけるようなプレーを見せられず、ベンチは解決策を与えるどころか早々に試合を捨ててしまった。
「自分たちはぎりぎりの状態でシーズン終盤を迎えてしまった。今はいち早くリーグ優勝を決めること。そして来季に向け、決断を下さなければならない」
試合後ピケが言っていた「決断」が何を意味するのか。それは本人のみぞ知るところだが、彼がこのままではいけないと考えていることだけは確かだ。彼はこうも言っていた。
「メッシなしでは同じプレーはできない。でも彼の不在が影響したとは思わない。彼がいても同じ結果に終わっていたと思う」
ネガティブ思考を拭いきれないファン、1選手への依存が過ぎるチーム、そして戦術的に行き詰まった指揮官。ピケの言葉は、今回の惨敗が浮き彫りにしたこれらの問題点を考えさせるものだった。
<了>