マドリーとバルサが喫した対照的な敗戦=S・ラモスとピケに見る両チームの差異

工藤 拓

粘り見せるも1ゴール差に泣いたマドリー

カシージャスに抱擁され、涙ぐむセルヒオ・ラモス(右)。敗れはしたものの、そのプレーはクラブ伝統の不屈の精神を体現していた 【Getty Images】

 選手入場とともに、サンティアゴ・ベルナベウのゴール裏に巨大なビッグイヤーを描いたモザイクが現れる。そして「シー、セ、プエデ!(そうだ、可能だ)」の大コール。同じコールは試合開始から58秒、左サイドをえぐったコエントランがコーナーキックを獲得した直後にもスタンドに響き渡った。

 1−4の大敗を喫したチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1レグからの逆転を強いられた第2レグ。ドルトムントをホームに迎えたレアル・マドリーはゲーム終盤に2ゴールを奪い、逆転まであと1ゴールに迫る驚異の粘り腰を見せた。

 スタートからエンジン全開で猛攻を仕掛けながらもイグアイン、クリスティアーノ・ロナウド、エジルらが立て続けに決定機を決め損ね、その後は徐々に勢いが落ちていく嫌な展開。だがカウンターから招いた幾度のピンチをGKディエゴ・ロペスの好守でしのぐと、83分にベンゼマが待望の先制点を奪う。これでチームとファンに失いかけていた勢いと逆転への希望が再燃した。

 そして88分、ゴール前左でベンゼマのパスを受けたセルヒオ・ラモスが左足でゴールネット上部を豪快に揺さぶり、とうとう1点差に。再び響く「シー、セ・プエデ!」の大コール。残り7分とロスタイム、ラモスは最前線の位置にとどまりあと1点を目指したが、最後に放ったヘディングシュートは惜しくもゴール左へ。ほどなく試合終了のホイッスルが響くと、ラモスは燃え尽きたかのようにピッチへと倒れ込んだ。

不屈の精神を体現したセルヒオ・ラモス

「自分を筆頭に、ピッチ上の全員が戦う姿勢に欠けた」

 第1レグの敗戦後、そう言って怒りをあらわにしていたラモスは、この第2レグで誰よりも強く、激しくその戦う姿勢を示した。

 守ってはドルトムントのクロップ監督が「ラモスはイエローカードを7枚もらうべきだった」と皮肉るほどのハードマークでFWレバンドフスキをたびたびいら立たせ、攻めては不発に終わった攻撃陣をしのぐチーム最多3本の枠内シュートを放った。望みをつなぐ追加点を決めた際、すでにラモスは決勝が出場停止となる警告を受けていた上、太ももを負傷し足を引きずっていた。

 試合終了直後、ベンチで一部始終を見届けたキャプテンのカシージャスがピッチへ向かい、涙ぐむラモスを優しく抱擁する。

 不遇をかこつキャプテンに代わって腕章を巻き、自らのプレーをもってチームを引っ張り続けたラモスはこの日、マドリー伝統の不屈の精神を誰よりも鮮明に体現していた。

悲しみの中にも垣間見えた充実感

「ドルトムントで今日の半分の力だけでも出せていれば……」

 試合後ラモスが悔やんでいた通り、ファンもチームも全てを出しきったマドリーの敗因は同様の姿勢で戦えなかった第1レグの敗戦にあった。

「残念だよ。負けることはある。でもこれ以上に良い負け方はない。フットボールとはそういうものさ」

 悲願のデシマ(10度目のCL制覇)はまたしてもお預けとなった。だが、それでも今日できることは全てやった。彼の言葉からは、悲しみの中にもそんな充実感を垣間(かいま)見ることができた。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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