『広島伝説』作った新4番・廣瀬という男

ベースボール・タイムズ

度重なる故障を乗り越えて新記録樹立

度重なる故障を乗り越えて、15打席連続出塁を果たした廣瀬。プロ13年目のベテランを新記録に導いたものとは!? 【写真は共同】

『始まりの鐘が鳴る 広島伝説』

 エルドレッドが故障離脱し、栗原健太の調子が今ひとつ上がらない中、広島の4番を任されているのが、背番号26・廣瀬純だ。この廣瀬が打席に入る時、応援団が奏でる各選手の応援歌の冒頭に歌われるのが、最初に記したフレーズである。

 失礼を承知で言えば、筆者はこれを聞く度に「格好良いけど、ちょっと大げさだよな」と思っていた。確かに良い選手ではある。法大時代に東京六大学で三冠王を獲得した高い打撃技術に加えて、強肩を生かした正確な送球、的確な打球判断でリーグ屈指の外野守備は、一流と呼ぶにふさわしいプレイヤーである。

 しかし、今季でプロ13年目を迎えた廣瀬が規定打席に達したのは2010年の一度だけ。100打席以上を記録したのも、7シーズンしかなく、不動のレギュラーとは言い難い選手だ。その原因となったのが、度重なる故障だった。肉離れなど下半身のケガに、背筋痛、手首の故障など、定位置の座をつかみかけたと思ったら、また故障で戦線離脱というのを繰り返した。

 そんな廣瀬が今季、本当に“伝説”を作った。4月21日のジャイアンツ戦の第4打席でセンター前ヒットを放つと、26日のドラゴンズ戦の第4打席まで実に4試合に渡って出塁を続け、プロ野球新記録となる15打席連続出塁を達成。従来の記録は、1993年の南渕時高(千葉ロッテ)、2003年の高橋由伸(巨人)、小笠原道大(当時日本ハムファイターズ)の14打席で、10年ぶりの記録更新となった。

 特に記録を更新した26日の試合は圧巻だった。前日の時点で、法大の大先輩であり、チームの偉大なOBである山本浩二氏と、現在、打撃コーチを務める緒方孝市の記録を抜いていた。「それだけでうれしかった」と、平常心で打席に入れたという廣瀬は、1打席目はレフト前ヒット、2打席目は貴重な先制タイムリーとなる二塁打で、山本一義氏の持つ球団記録を更新。3打席目にライト前に運んで日本記録に並ぶと、8回の第4打席では、「見送ればボールだった」という低めの球を、技ありの打撃でセンター前に落とし、4打席連続安打で新記録を樹立した。

 試合後、報道陣の前に姿を現した廣瀬は「(記録のうち)デッドボールが3つですよ。全部ヒットだったら良かったんですけど」と自ら切り出し、周囲を笑わせた。23日のスワローズ戦からは4番に起用されての記録達成だ。その間の15打席の内訳は、ヒット8本、四球が4つ、死球が3つと、およそ半分が四死球によるもので、選球眼の良さも記録の大きな要因となっている。

不完全燃焼の昨季は「我慢を覚えた年」

 ただ、四死球の「死」の部分は、これまでの廣瀬の飛躍を阻んだ元凶でもあった。73試合の出場に終わった11年は、規定打席不足にも関わらず、死球の数はリーグ最多の14個を記録。12年は、開幕から打撃好調でチームを引っ張ったが、5月に死球を受けて右手首を骨折し、不完全燃焼のシーズンとなった。

 廣瀬は、この昨シーズンを「我慢することを覚えた年」と振り返っている。2軍に落ちた時期には、野村謙二郎監督から「ベテランの域に入ったんだから、自分の行動に対して、プレー以外のところでも態度を考えなければいけない」と、アドバイスを受けた。
「若い人が、僕の態度や姿勢を見ているはず。彼らが不安を感じないように、また僕を見て付いてきてくれれば、と思いながらやっている」と、そのアドバイスは4番に座った現在に生きている。

 今季も、開幕当初はエルドレッド、ルイスの外国人2人が外野のポジションを占め、残りひとつのポジションには「新井打法」で覚醒した丸佳浩の存在もあり、廣瀬は対左投手用のスタメン、という位置にとどまっていた。それでも廣瀬は「その位置で結果を出すしかない。そうすれば次のステップに進めるはず」という信念を持ち続けた。その姿勢があったからこそ、野手だけでなく、前田健太や野村祐輔ら先発投手陣の離脱で危機的状況に陥ったチームの中で、廣瀬は救世主的存在になり得たのだろう。

死球対策で得た新たな感覚

 さらに今季は、技術面でも新たな境地に入っている。「練習の中で、新井(宏昌)さんと緒方さんの2人のコーチに、自分の知らない感覚を引き出してもらっている」と、手応えを口にする。
 その新たな感覚のひとつは、これまで悩まされた死球禍から来た、まさに「ケガの功名」だった。今季は死球対策のため、打席に入る際、ホームベースからやや離れた位置に立つように変えた。もともと内角打ちには定評があった廣瀬だが、本人が「去年とはえらい違い」という位置での打撃は、厳しい内角攻めに対しても「去年ならファールになっていた打球が、(フェアグラウンドに)入る」と、好結果につながった。

 記録達成の試合後、報道陣との長い問答を終えた廣瀬は、最後に「みなさん、ありがとうございました」と、深々と頭を下げ、報道陣の全員と握手をして回った。その姿に、周囲からは誰からともなく自然に大きな拍手が沸き起こった。

 山本浩二氏らが放った球団記録となる9打数連続安打、さらには大リーグで「最後の4割打者」として知られるテッド・ウィリアムズの持つ16打席連続出塁の記録がかかった27日の試合では、残念ながら4打席ノーヒットに終わった。それでも34歳になった今シーズン、新たなステージに足を踏み入れつつある廣瀬に対して、さらなる“広島伝説”を期待せずにはいられない。

<了>

(大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)
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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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