120%は難しい…マラソン安全確保の課題

及川彩子

人々を震撼させたボストンでの爆発事件

爆発事件の翌日、現場付近を囲うバリケードで献花する人々=現地16日 【写真:AP/アフロ】

 米国北東に位置するボストンでは、4月の第3週月曜日に行われるボストンマラソンで春の訪れを感じる人も多いという。今年も絶好のコンディション下でスタートし、多くの笑顔がはじけていたゴール地点は、トップ選手がフィニッシュした2時間後、一転して殺戮(さつりく)の現場となった。ゴール手前での爆発映像は、全世界に瞬時に配信され、多くの人々を震撼させた。

 犠牲になったのは、ランナーやレースに参加している家族や友人知人の応援に駆けつけていた人たち。『平和の象徴』でもあるスポーツの現場を狙い、多くの死傷者を出した卑劣なテロ行為(※編集部注:爆発事件。日本時間18日正午時点では、テロ行為として捜査中との報道)に憤りを感じ、許せない気持ちでいっぱいだ。

 米国におけるスポーツイベントでのテロ行為(もしくは相似する事件)は、アトランタ五輪以来となる。アトランタではオリンピックパークの屋外のコンサート会場に爆発物が仕掛けられ、100人を超える死傷者を出した。その事件をきっかけに五輪や世界大会の警備が厳重になったのは記憶に新しい。しかし残念なことにその後も、世界各地のスポーツイベントでの痛ましい事件は後を絶たない。

マラソンなどで厳重化する警備

 2001年の同時多発テロ以降、米国、特にニューヨークのスポーツイベントの警備は非常に厳重になっている。入口で荷物検査があるのはもちろん、バックパックなどの大きな荷物を持ち込めなかったり、再入場が認められないなどの規制もある。
 テロが警戒された08年北京五輪や12年ロンドン五輪はメーン会場や公園はチケットを持っている人しか入れず、入口では持ち物検査が行われた。北京では多くのイベントがメーン会場で行われていたにもかかわらず、入口が非常に少なかったため、手荷物検査のために炎天下の下で1時間以上並ばされて疲れきった表情の人たちが多く見受けられた。

 ニューヨークシティマラソンの警備も非常に厳重と言える。01年のテロの後、マラソンのスタート地点であるスタテン島のベラザノナロー橋に爆発物が仕掛けられるのではないか、という噂(うわさ)が流れたこともあった。そのため海上には、湾岸警備隊のボートが、そして空にはヘリコプターが巡回する徹底ぶり。レース前にはニューヨーク市警やスタッフがコースの安全性を入念に確認し、不審物の有無はもちろん、ゴミ箱の撤去などを行うほか、レース中も警察犬とコース付近を巡回し、不審者や不審物に目を光らせている。スタートとゴール地点は特に厳重で、証明パスがなければ関係者でも入れない。ゴールとなるセントラルパークは、コースの内側(つまり公園内)から外に出たら、レースが終わるまで園内に戻れないほか、ゴール付近は招待客しか入れないなど、徹底管理が行われている。
 ニューヨーク市警による警備の詳細は明らかになっていないが、橋や主要ビルなどポイントとなる場所には、いざというときに備えて多くの警官が配備されていることは、想像に難くない。01年のテロから2カ月後に行われたニューヨークシティマラソンの際には、ニューヨーク市警が主催者のニューヨークロードランナーズから出場者や関係者、メディア、ボランティアのリストを入手し、犯罪歴の有無など身元調査を行いテロ対策をとったとも言われている。
 しかし囲いのある施設内で行われるスポーツと異なり、マラソンや駅伝は街全体が会場となるため、「120パーセントの安全を確保」をするのは残念ながら不可能だ。沿道の観客やボランティアの所有物ひとつひとつをチェックすることはできないからだ。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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