久光製薬を頂点に導いた2人の新星=長岡、石井を育てた世界基準のバレー

田中夕子

我慢の起用が実り、成長を遂げた石井

調子の波が激しかった石井(青)だが、我慢の起用が実り、調子を徐々に上げていった 【坂本清】

 一方の石井は、セミファイナル初戦の東レ戦では、攻守両面で精彩を欠き、皇后杯決勝での長岡と同様に、石田との途中交代を命じられた。

 攻撃が決まらないとサーブレシーブにも影響を及ぼし、サーブレシーブが崩れると、さらに消極的な攻めしかできず、安易にフェイントを繰り返し、勝負にいけばミスになる。

「良い時は良いけれど、悪い時はとことん落ちてしまう。波が激しすぎるので、悪くても悪いなりにどうにかしなければいけない。分かっていても、それがずっと課題でした」と大事な決戦を前に、落ち込んでいた石井をリベロの座安琴希が叱咤(しった)した。

「ミスが続くと下を向くけど、そんな姿をコートで見せたら控えの選手は納得しないよ。たとえ調子が悪くても、思い切りやればいいんだよ」

 チームとして、若い2人を育てると決めた以上は、控えに回る選手もいる。悔しい思いをしながらベンチで待ち、与えられた役割を懸命に果たしてくれる選手の分も、けがでコートに立てない選手の分も背負って、自分たちはここに立っている。

 第3レグの中盤、石井は、座安と同じことを中田監督からも言われた。

「いつだってユキを替えることはできるし、替わりはいるんだよ。そこで踏ん張れるかどうかは、自分次第じゃないの?」

 掛ける言葉が厳しくても、また翌日、スタメンで起用してくれる監督の期待に応えたかった。気持ちがくじけそうになった時、後ろから声を掛けてくれる仲間の思いに応えたかった。

 セミファイナルから1週間、決勝の相手は東レだ。序盤からサーブで狙われたが、スパイクが決まらなくても、レシーブが乱れても、常に前を向くことを意識した。

「『自分にはできるんだ』とずっと言い聞かせて試合に臨んでいました」

 苦しい状況でもクロス、ストレートと打ち分け、2、3セットと試合が進むごとに決定率を上げた。

「不調でも替えずに、ファイナルまで我慢して使い続けてくれたことに感謝します」

 ようやく、1つの壁を、乗り越えることができた。

 皇后杯に続いて2つ目のタイトル獲得にも、中田監督は「まだ6合目」と言う。
「リーグ優勝で、初めてスタートラインに立てる。これからが、本当の戦いの始まりです」
 
 目指すべき、世界へ向けて――。2人の新星が、ここから羽ばたいていく。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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