「カープスタイル」で夢を追う――ドミニカで響く日本野球

中島大輔

ブルペンから聞こえる日本語

ソリアーノやチェコらを輩出した広島のカープアカデミー。広島式でドミニカ人選手たちを鍛え上げている 【撮影:龍フェルケル】

 ドミニカ共和国のサンペドロ・デ・マコリスは、「世界で最も野球選手を輩出している」と言われる町だ。その一角に、広島東洋カープの所有するカープアカデミーはある。

 カープアカデミーは1990年11月、現地でドミニカ人選手を発掘&育成しているメジャーリーグ(MLB)の各球団に倣い、6億円の総工費をかけて4面のグラウンド、ブルペン、選手宿舎などの施設が設立された。MLBでシルバースラッガー賞(各ポジションで最も打撃に優れた選手を選出)に4度輝いたアルフォンソ・ソリアーノや、95年に広島で15勝を挙げたロビンソン・チェコ、90年代に広島で投手&内野手の二刀流としてプレーしたフェリックス・ペルドモらを輩出している。

 2月13日、カープアカデミーを訪れると、ブルペンから不思議な声が聞こえてきた。ドミニカ人のキャッチャーたちがミットでボールの音を響かせるたび、日本語で「はいよ!」「押忍」「頑張って!」と声を掛けているのだ。

「選手が日本に行った時のことを考えて、少しでも環境に慣れられるようにね」
 ブルペンキャッチャーのアウレリオ・ドス・サントスはそう語る。ドミニカにはメジャーリーグの28球団がアカデミーを置いているが、広島のそれは独特な雰囲気だ。MLBのアメリカ式と異なり、カープアカデミーは広島式でドミニカ人選手たちを鍛え上げている。

MLB挑戦に夢破れた選手のセカンドチャンス

カープアカデミーには現在、13人の選手が所属。その中にはMLBで結果を残せずセカンドチャンスを求めて来た者も少なくない 【撮影:龍フェルケル】

 カープアカデミーには現在、13人の選手が所属している。いずれも投手だ。取材前日にトライアウトが行われ、合格した数人がこの日から練習に合流した。練習生扱いの彼らは3カ月以内に将来性を認められた場合、契約を結ぶ。

 目についたのが、数名の選手がワシントン・ナショナルズ、クリーブランド・インディアンスなどMLBのアンダーシャツを着ていたことだ。彼らはMLBと契約を結んだが、結果を残せず、カープアカデミーにやって来た。
 投手コーチのフアン・フェリシアーノが彼らの状況について説明する。

「メジャーのアカデミーはカネを持っていて、ドミニカ中のタレントを集めてくる。でも、そこで指導しているコーチたちは、メンタルの話を含めてあまり教えない。MLBの選手たちは活躍できなければ、すぐに解雇されるだけだ。そうした選手がカープアカデミーにセカンドチャンスを求めてやって来る」

 フェリシアーノ自身が現役時代、まさにそんな体験をした。プロ生活をスタートさせたボストン・レッドソックスでは結果を残せず、カープアカデミーで腕を磨き、04年から広島で3年間プレーした。その後はイスラエル、メキシコ、アメリカの独立リーグなどを経て、11年からコーチとしてカープアカデミーで指導している。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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