「カープスタイル」で夢を追う――ドミニカで響く日本野球

中島大輔

「日本で野球をすれば、成長することができる」

日本式のハードトレーニングでメンタル強化も図っている 【撮影:龍フェルケル】

 ドミニカでプロ野球選手を志す少年の多くは貧困に苦しみ、十分な教育を受けていない。だから規律がなく、「指導を受けてもすぐに忘れてしまう」とフェリシアーノは言う。そのクセを修正するために、カープアカデミーでは日本式のハードトレーニングで繰り返し練習させる。それがメンタル強化につながっていく。

 毎朝の練習前、フェリシアーノは選手たちにこう話している。
「強いメンタルを育むことができなければ、良い選手にはなれない」

 日米でプレー経験のあるフェリシアーノは、日本の「野球」とアメリカの「ベースボール」の違いをこう解釈している。

「日本人は野球に忠誠を尽くし、懸命に働く。アメリカ人は野球をもっと楽しんでプレーする。彼らにとってのベースボールはよりシンプルで、ドミニカ人にはその方が合っている。でも日本で野球をすれば、能力を伸ばし、選手として成長することができる。日本で成功するには、日本人のように我慢強くならなければならない」

ダイヤモンドの原石を育てるカープアカデミー

WBCで世界一に輝いたドミニカ。広島は、眠ったダイヤの原石を狙う 【撮影:龍フェルケル】

 近年のカープアカデミーは、うまく機能しているとは言い難い。「外国人=助っ人」と捉えるなら、95年に15勝を飾ったチェコと、98年に98試合で打率2割9分6厘を残したティモニエル・ペレスくらいしか、成功したとは言えないだろう。
 ただ、ヤンキースやテキサス・レンジャーズなどでスーパースターの地位を築いたソリアーノや、MLBで8年間プレーしたペレスを輩出しているのも事実だ。
 フェリシアーノは言う。
「正直、カープアカデミーに来る選手の才能はカネのあるMLBより劣る。でも、彼らも可能性を秘めている」

 12年開幕時点のMLBに、ドミニカはアメリカに次いで多い95選手を送り込んだ。13年のWBCでMVPに輝いたロビンソン・カノ、1番としてチームを牽引したホセ・レイエス、守護神のフェルナンド・ロドニーはメジャーでもトップクラスの実力だ。毎年400人近くがアメリカの球団と契約を結ぶドミニカには、ダイヤモンドの原石が大量に眠っている。そこに目を付けた広島の狙いは間違っていない。

「皆さん、ドミニカから良い選手を送ります。頑張ります。お願いします!」

 日本語でそうメッセージをくれたフェリシアーノの下、アメリカ流のシビアな世界で成功できなかったドミニカ人選手たちが、カープスタイルのハードワークでセカンドチャンスをモノにしようと努力している。
 ガブリエルやポランコが目指す、広島経由MLB行きの夢――。
 ドミニカの「世界で最も野球選手を生み出している町」から、ひとりでも多くの若者が夢をかなえることを願ってやまない。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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