「カープスタイル」で夢を追う――ドミニカで響く日本野球
練習は質、量ともにハードな「カープスタイル」
ブルペンでは毎日60〜70球を投げ込む「カープスタイル」で、球速をアップさせる選手は多いという 【撮影:龍フェルケル】
なぜ、ガブリエルは急速に伸びたのか。
ナショナルズではあまり指導を受けず、自己流の部分が多かった。しかし、「カープアカデミーで下半身の使い方を習い、体力アップに励んだことが大きい」とフェリシアーノは指摘する。
カープアカデミーの練習は質、量ともにハードだ。ドミニカにあるMLBのアカデミーでは、全体練習は毎日午前中に2時間半ほど。対して、カープアカデミーでは午前中から4時間、夕方に2時間行う。フェリシアーノによると練習メニューは「カープスタイル」で、ブルペンでは毎日60〜70球を投げ込む。「アメリカ方式の練習ではそんなに投げさせないが、毎日投げることで投手は良くなる。アメリカより日本の練習方法の方が優れている」とフェリシアーノは言う。MLBのアカデミーでは珍しい走り込み、筋力トレーニングも欠かさない。取材日は気温30度を超える炎天下の中、中距離走が1時間、筋トレが30分行われた。
「ここの練習はハードだよ。正直、不満を言ったこともある(笑)。でも、良い選手になりたいからね」
ガブリエルはそう言って、屈託のない笑みを浮かべた。一方、育成選手として昨季、広島で1年間をすごしたホセ・ポランコはこう話す。
「ハードというのは正確な表現ではない。それは彼らの熱意なんだ。日本人はそうやって上達していく」
カージナルスから解雇され、カープアカデミーにやって来て半年になるダニーロ・ヘスス、25歳の右腕投手はこう語る。
「アメリカの練習とはすごく違うね。ここでは野球選手になるための方法を教えてくれる」
ドミニカ人のフィジカルと日本のメカニックの融合
多くが自己流で腕を磨くドミニカ人。理にかなわないフォームの選手が少なくないが、カープアカデミーでは選手が理解して教えている 【撮影:龍フェルケル】
カープアカデミーでキャッチボールを見ていると、理にかなわないフォームの選手が少なくなかった。日本なら、中学や高校の段階でコーチに修正されているだろう。だが、カープアカデミーでは「ドミニカスタイル」を採用する。その理由をフェリシアーノはこう説明する。
「教えすぎると彼らの頭はパニックを起こしてしまう。まずはキャッチボールで投げさせて、少し経った後に投げ方を教える。選手は自分で解釈することが必要だ。1週間後にうまくいってなかったら、また教える。メカニック(フォームにおける一連の動作)を強制することはできない。今はまだ規律がないから、それができてからメカニックを教える。ここにやって来るドミニカの選手には素晴らしいフィジカルがあるけど、メカニックはない。それらをうまく組み合わせようとしている」