「カープスタイル」で夢を追う――ドミニカで響く日本野球

中島大輔

練習は質、量ともにハードな「カープスタイル」

ブルペンでは毎日60〜70球を投げ込む「カープスタイル」で、球速をアップさせる選手は多いという 【撮影:龍フェルケル】

 12年12月にやって来たブライアン・ガブリエルは、ナショナルズに解雇されてカープアカデミーにチャンスを求めた左腕投手だ。当初、ストレートの球速は140キロだったが、わずか数カ月の練習で144〜150キロにアップした。

 なぜ、ガブリエルは急速に伸びたのか。

 ナショナルズではあまり指導を受けず、自己流の部分が多かった。しかし、「カープアカデミーで下半身の使い方を習い、体力アップに励んだことが大きい」とフェリシアーノは指摘する。

 カープアカデミーの練習は質、量ともにハードだ。ドミニカにあるMLBのアカデミーでは、全体練習は毎日午前中に2時間半ほど。対して、カープアカデミーでは午前中から4時間、夕方に2時間行う。フェリシアーノによると練習メニューは「カープスタイル」で、ブルペンでは毎日60〜70球を投げ込む。「アメリカ方式の練習ではそんなに投げさせないが、毎日投げることで投手は良くなる。アメリカより日本の練習方法の方が優れている」とフェリシアーノは言う。MLBのアカデミーでは珍しい走り込み、筋力トレーニングも欠かさない。取材日は気温30度を超える炎天下の中、中距離走が1時間、筋トレが30分行われた。

「ここの練習はハードだよ。正直、不満を言ったこともある(笑)。でも、良い選手になりたいからね」

 ガブリエルはそう言って、屈託のない笑みを浮かべた。一方、育成選手として昨季、広島で1年間をすごしたホセ・ポランコはこう話す。
「ハードというのは正確な表現ではない。それは彼らの熱意なんだ。日本人はそうやって上達していく」

 カージナルスから解雇され、カープアカデミーにやって来て半年になるダニーロ・ヘスス、25歳の右腕投手はこう語る。
「アメリカの練習とはすごく違うね。ここでは野球選手になるための方法を教えてくれる」

ドミニカ人のフィジカルと日本のメカニックの融合

多くが自己流で腕を磨くドミニカ人。理にかなわないフォームの選手が少なくないが、カープアカデミーでは選手が理解して教えている 【撮影:龍フェルケル】

 ガブリエルやポランコ、ヘススはカープアカデミーで過ごしながら、日本流を理解した。一方、やって来たばかりのドミニカ人選手たちには、「カープスタイル」は受け入れづらい。ドミニカの少年たちの多くが自己流で腕を磨き、コーチにまともな指導を受けるのはプロとして契約を結んだ後のことだ。日本のように厳しい練習は、ドミニカにはなかなか存在しない。

 カープアカデミーでキャッチボールを見ていると、理にかなわないフォームの選手が少なくなかった。日本なら、中学や高校の段階でコーチに修正されているだろう。だが、カープアカデミーでは「ドミニカスタイル」を採用する。その理由をフェリシアーノはこう説明する。

「教えすぎると彼らの頭はパニックを起こしてしまう。まずはキャッチボールで投げさせて、少し経った後に投げ方を教える。選手は自分で解釈することが必要だ。1週間後にうまくいってなかったら、また教える。メカニック(フォームにおける一連の動作)を強制することはできない。今はまだ規律がないから、それができてからメカニックを教える。ここにやって来るドミニカの選手には素晴らしいフィジカルがあるけど、メカニックはない。それらをうまく組み合わせようとしている」

2/3ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント