海外移籍の若年化が生むJリーグの価値=ピッチ内外に必要な世界基準の意識

小澤一郎

根強い代理人排除の移籍

香川はJリーグで結果を残してから欧州移籍を果たし、日本選手の価値を高めている 【写真:Atsushi Tomura/アフロスポーツ】

 もう1つの問題は、アマチュア選手をプロに送り出す側の高校や大学の監督に根強く残る「代理人排除の傾向」だ。学校、部活動という枠組みの中で活動する以上、在学中に代理人が入り込み、選手と契約を結ぶことを避ける気持ちも分からないではないが、田邊氏は「選手がプロ契約する最初の契約が一番大切であり、そこに代理人が関わることが選手にとってとても重要」とした上でこう続ける。「一番重要な契約は、プロ入りの時なのですが、そこで代理人を排除する傾向はまだ一部の大学、高校の先生にあります。昨年末には当社でも大学生で同様のケースがありました。選手や保護者も『お世話になったから』と学校の先生に依存していて、プロとして仕事先や契約を決めるにもかかわらず、主体性がない、あるいは主体性を持たせてもらえていないケースが目立ちます」

 田邊氏が「国内ルールがなくなった以上、エージェントもクラブの利益を考えなくてはいけない時代に来ました」と述べるように、主力選手が契約延長を断わり、フリー(ゼロ円)で海外移籍するような時代は終わった。田邊氏のみならず、日本で活躍するほとんどの代理人が「いかに移籍金をとって、Jクラブ、選手双方がハッピーになれるか」という構造を模索している以上、もはやJクラブにとっても最初のプロ契約の交渉から代理人が付いていた方が良い時代に突入しており、高校や大学の監督(教員)が代理人を排除するような行動には出るべきではない。

 今後もJスルー移籍や、1年や2年のみのJリーグ経験で海外移籍する事例は増え続けるが、私自身はこの流れを「Jリーグの価値を高めるチャンス」だととらえている。外国語を習得するために母国語のベースが重要であるのと同様、日本人選手として海外で活躍するためにはJリーグでのベースが必要不可欠になると考えているし、Jリーグが日本人選手にとってそういう存在になってもらいたいと切に願う。

「Jリーグでベースを作ること」の意義

 ただし、田邊氏は「Jリーグでベースを作るというというのがどういうことか議論する必要がある」と指摘する。「確かに香川も清武もみんなJリーグでベースを作って海外に行った選手たちです。でも、Jリーグで何を会得してから海外に行くのがいいのか、それは日本の高校やユース、または海外のクラブで会得できないものなのか。この2つは考えなければいけない。加えて選手のキャリアデザインに沿った成長と進化が見込めるのかどうか重要です。はっきり言うと、将来欧州でやりたいのであれば、欧州で会得できた方がいい、成長と進化が見込めた方がいいわけです。でも、どの選手も欧州で会得できないから、日本のクラブでワンクッション入れてということになっています。当社ではそのポイントとなるのは技術ではなく、メンタリティーだと思っています。そのメンタリティーが養われていて、キャリアデザインに沿った成長と進化がプランされているのであれば、別に最初から行っても大丈夫だと当社では考えています」

 田邊氏の意見に加えて、私は「プロとして結果を出す経験」があると考える。海外でも即戦力として移籍し、すぐに適応できれば、それが会得可能であろう。しかし、海外は日本以上に結果至上主義で「結果」を即求められる。そこには、「まだ若いから……」という忍耐や我慢はなく、たとえ複数年契約を結んだとしても期待値以下の活躍であれば、短年や半年での放出もありえる。皮肉な話ではあるが、サテライトリーグが廃止され、23歳以下の若手育成システムに問題を抱えるJリーグの方が、海外よりも若手に対して寛容だという見方もできる。

 海外移籍若年化の流れ事態は止められず、また止める必要もない。逆にその流れをJリーグや日本サッカー界の好循環につなげるためにも、今回紹介した問題に対する対策や、「Jリーグでベースを作ること」の意義を議論した上で、Jリーグの新たな価値を生み出す必要があるのではないだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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