広島に必要な“エース以外の得点源”=佐藤対策をいかにかいくぐるのか

中野和也

指揮官が目指す「勝ちきれる」チーム

開幕戦では敗れたが収穫もあった。今後はそれを生かしつつ課題を解決することが求められる 【写真は共同】

 もちろん、この策には強烈な運動量と精神的な集中が要求される。少しでも隙を見せれば佐藤も、あるいは森崎兄弟や青山といった経験者たちも、一気の刃を仕掛けてくる。それが現実となりかけたのが34分、青山のパスカットからのカウンターで生じた広島のビッグチャンスだ。この時、裏を突いた森崎浩司が放ったシュートが入っていれば、浦和の目算は一気に崩壊した可能性もある。リスクを冒して前に出なければならず、その結果として、広島のカウンターの刃をまた浴びたかもしれない。

 さらに森崎浩のFKが決まって1点差となった後、心身の疲労から浦和の運動量はガックリと低下、ペースは完全に広島側に移った。88分には清水のシュートをGK加藤順大があわやトンネルしてしまいそうになるシーンもあった。サッカーとは、そういう紙一重の部分が重なりながら、やりとりを続けるスポーツだ。

 先制点が取れるかどうか。2013年に広島が戦った3試合では、結果としてそこが勝敗の分かれ道となっている。昨年のリーグ戦では一度も逆転勝ちがない広島の課題は、まだ解決できていない。それでも優勝できたのは、34試合中23試合で先制し、19試合で勝利を収めるという試合運びのうまさ、そしてそれを支える守備の堅実さが大きな要因だ。

 その強みはそのままにして、森保一監督はさらに「勝ちきれる」チームを目指し、前線からの守備もオプションに加えようとしている。広島の堅守を支えた引いた位置でのブロックだけでなく、高い位置からボールを奪えるようになれば、先制を許して守備を固めた相手からも得点が奪える。それができれば、広島対策への解決策にもつながるはずだ。

 浦和戦では、その前線からの追い込みが逆に中盤でのスペースを相手に与えてしまい、主導権を握られてしまった。ただ、いくらキャンプでやってきたとはいえ、実戦の中での失敗経験・成功体験がないと、本当に使える戦術にまで昇華できない。リトリートとアグレッシブの使い分け、アグレッシブにいく時の連動性など、課題を一つひとつクリアにしていけば、精度はさらにあがるはず。そうなった時、新しい広島の姿が見えるかもしれない。

広島の課題もまだ「保留」

 ACL(アジアチャンピオンズリーグ)のブニョドコル戦では後半、大きなチャンスを創造した。浦和戦でもビッグチャンスとまではいかないまでも、惜しいシーンを創り続けた。相手の広島対策も、90分は続かない。それが緩むまで、どう我慢するか。緩んだ時に、どうやって点を取るか。攻守両面にわたっての狡猾(こうかつ)さが必要だ。ゼロックス杯の時は、水本裕貴の攻撃参加が得点につながった。だが浦和戦では、水本がアグレッシブに前に出た後、カウンターから失点している。後ろからの攻撃参加は広島の特長だし、失点したからといってやめることはないが、リスク管理をもっとシビアに考える必要がある。その判断は難しい。広島にクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)がいれば、また別の話になるのだろうが。

「自分が10得点くらいをあげないと、今季は厳しい」と高萩は語った。ブニョドコル戦後の水本は「ミドルシュートが必要」と口にした。ゼロックス杯で素晴らしいゴールを記録したエースへの信頼は絶大だが、どんなチームも広島対策として「佐藤に点を取らせないための方策」を構築してくる。そこをかいくぐるには、エース以外の得点源が必要だ。

 ただ、それは決して簡単なテーマではない。例えば広島に完勝した浦和にしても、得点はコンビネーションよりもカウンターとミス絡み。興梠も、結果としてシュートゼロに終わっている。原口のシャドーは機能していたが、守備のタスクが増える今のポジションで昨年ほどの得点を稼げるかどうか。広島戦を見る限りは「やれる」とも言えるが、シーズンは長い。このシステムが花を開くかどうか、それはまだ結論は出せまい。興梠という実績のあるストライカーを補強した浦和が「結論保留」であるならば、広島の課題もまだ「保留」である。

 勝った浦和にも、負けた広島にも「課題」と「収穫」はある。開幕戦の結果に一喜一憂したくはなるが、ここから展開されるドラマの結末は、まだ誰にも分からない。

<了>

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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