J選抜と高校選抜がしのぎを削る意義=高校生たちの価値ある、新たな夢への門出

平野貴也

互いにライバル意識を見せたJ選抜と高校選抜

ネクストジェレーションマッチには、広島に加入する四日市中央工の浅野ら、プロ選手も参加した 【写真:松岡健三郎/アフロ】

 今シーズンのJリーグ開幕を告げる富士ゼロックススーパーカップで佐藤寿人(サンフレッチェ広島)がビューティフルボレーを決めた数時間前、国立競技場では将来の日本サッカーの主役候補たちがプライドをぶつけ合っていた。前座として組まれたのは、U−18Jリーグ選抜と日本高校サッカー選抜による“ネクストジェネレーションマッチ”だ。

 試合は前半10分、J選抜のMF宮本航汰(清水ユース)が左からのクロスをボレーで合わせ、まだ客のまばらなスタンドを早くもどよめかせる。一方の高校選抜は、全国高校選手権では初戦敗退となった四日市中央工高のプロ加入選手、浅野拓磨(広島)と田村翔太(湘南ベルマーレ)のホットラインがスピードのある攻撃を見せ、ゴールへ襲いかかった。

 時間がたつとJ選抜がゲームをコントロールしたが、後半は両チームが選手を次々に入れ替えて、打ち合いの展開に突入。J選抜はFW菅嶋弘希(東京ヴェルディユース)、北川航也(清水エスパルスユース)らのドリブルシュートで襲いかかり、高校選抜は、選手権の得点王コンビである小屋松知哉、仙頭啓矢(ともに京都橘高)が軽快に動いて対抗。さらに平岡翼(作陽高)が抜群のスピードでカウンター攻撃を繰り出し、何度も好機を演出した。両チームによる攻防が繰り広げられるなど、熱戦となったが、試合は0−0の引き分けに終わった。どちらも即席のチームだが、試合後には互いに「1学年下のJ選抜には負けられない」(浅野)、「J選抜は高校選抜より絶対に技術が高い。思い切ってプレーして圧倒してやろうと思った」(前貴之=コンサドーレ札幌U−18)と闘志を秘めていたことを明かした。

 育成年代の活性化を目的に2010年から始まったこの親善試合は、翌11年から現在の名称で続けられ、4回目の開催を迎えた。高校選抜は全国高校選手権の優秀選手によって構成され、欧州遠征に参加する国際ユース大会を目標にしたチームだ。今回は、高校選手権の都道府県予選で敗退した学校の選手も対象とした予備選考合宿を新たに行い、全国大会未出場の選手もメンバーに選出。野村雅之監督(作陽)は前日の会見で「選考方式が変わり、幅が広がった。本当の意味で日本高校サッカー選抜になっている」と手応えを話していた。高校卒業後、プロに進む選手の何人かはクラブ事情によって選出外となっているが、浅野、田村、平秀斗(佐賀東高→サガン鳥栖)とプロへ進む選手も参加。この試合は、メンバー選考や海外遠征に向けたテストマッチでもあった。

高校サッカーの“続き”を楽しむ貴重な機会

 2月半ば、現役高校3年生は、多くが4月からの新たな進路に向けた準備に入っており、大学やプロでの活動を開始している。J選抜が2年生以下で構成されているのもそのためだ。高校選抜は、いまなお3年生がチームを組んで活動している、少し特別な存在だ。いわば、高校サッカーのボーナスステージである。しかし、単なる“おまけ”ではない。選抜チームでの活動や海外遠征は、大学などで再びプロ入りを目指す選手にとって大きな刺激となる。現状では、年代別代表での経験はJユース組が豊富であり、高校勢は経験に乏しい。貴重な機会となる。今回の高校選抜を率いた野村監督は、作陽高で組織力の高いチームを毎年作り上げている名将だ。J選抜との試合後には「縦へのスピードという武器を持つ選手が多いのがチームの特長。飛び道具は生かせたが、形を数多く作ることはできなかった。これからは『作り』の部分をやらなければいけない。守備は約束事を作っていけばやれるが、攻撃の回数をどうやって増やすか」と課題を挙げた。

 高校サッカー全体のカラーがそのまま反映されたチームだ。特に近年は、技術の高いJユースに対抗するため、守備力とカウンター気味の高速アタックを特長とするチームが増えている。試合中にキャプテンマークを巻いていた浅野も「いくらスピードがあっても、タイミングが合わないといけない。J選抜は落ち着きがあって、ドリブルやパスで前に行けないときに攻撃を作り直すことができていた。一人ひとりの技術が高くないとできないけど、集まったばかり(※高校選抜は合宿を行っているが、J選抜は前日練習のみで臨んだ)なのに、みんなが理解できているから試合でもできていた」と相手と比較しながら、取り組むべき問題点を指摘した。ただ、高校選抜もチーム作りは始まったばかり。これまでの合宿では積極的な守備と攻守の切り替えを強調し、原点となる守備からの速攻を磨いてきたという。ビルドアップの改善は、時期的にも“これから”取り組む課題なのだ。名将のチーム作りがどんな成果を挙げるか楽しみだ。

 彼らは今、高校サッカーの“続き”を楽しんでいる。昨年、2年生でこのチームに参加していた田村は「あの数カ月で人生が変わった」と、当時を振り返った。選手権で活躍して自信が生まれ、選抜に入ったことで優れた仲間との競争意識を強く刺激された。その結果、プロ入りを果たすという夢をかなえた。この日、高校選抜はまだまばらだったとは言え、国立競技場という夢の舞台で観客から拍手も浴びた。J選抜にとっても刺激は大きい。汰木康也(横浜Fマリノスユース)は「仲間のレベルが高くて刺激を受けた。相手は学年が上で選手権で名前を聞いたことのある選手ばかりだったけど、チャレンジする気持ちでやったし、得意のドリブルは通用すると分かって自信になった」と笑顔を見せた。“ゼロックスの前座”、“高校生のオールスター戦”。どちらもネクストジェネレーションマッチの呼び名だが、単なる華試合ではない。今後の彼らの成長がきっと“価値ある、新たな夢への門出”であったことを証明するだろう。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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