箱根駅伝のヒーローが描く、世界挑戦のシナリオ=東海大・村澤明伸インタビュー

折山淑美

卒業後は日清食品グループ入りし、拠点を米国に移す予定の村澤。米国での練習プランなどを語った 【写真提供:東海スポーツ】

 佐久長聖高時代から注目され、2009年の東海大学入学後も10年世界ジュニア5000メートル8位入賞や、11年日本選手権1万メートル2位、アジア選手権1万メートル3位の実績を残した村澤明伸。箱根駅伝でも1年生からエース区間の2区を走り、11年には歴代4位の1時間06分52秒で区間賞を獲得して金栗四三杯も獲得した。最終学年だった昨年はアキレス腱痛で箱根駅伝予選会を欠場し、東海大も本戦出場を逃す屈辱を味わった。そんな彼が実業団の強豪・日清食品グループ入りする今季、どんな戦略を持って何を目指そうとするのか――村澤に話を聞いた。

箱根は出場ならずも「悪いシーズンではなかった」

――昨年はけがをして箱根駅伝にも出られず、大学最後の年は不完全燃焼で終わってしまった感じですね。

 結果的には満足のいく結果を得ることはできませんでしたが、その中で故障をしたからこそ気付けたこととか、いろいろ学べるものもあったので、シーズンとして悪かったという捉え方はあまりしていません。

――「学んだ」というのは、けがを防ぐための体のケアなどですか?

 そうですね。これまでけががなかったので、「自分なら故障をしない、大丈夫だ」という過信みたいなものもあったのかもしれないと思います。

――箱根に出られなかったのは残念ですが、その分じっくりとけがを治す時間が取れたのは不幸中の幸いとも言えますね。

 自分個人のことを考えればそういう風にも感じますが、大学に恩返しをしたかったという気持の方が強いので。予選会に出ないという選択が正しかったのかどうかは、これからの自分次第だと思います。あの選択が間違っていなかったんだと、周りからも自分自身でも思えるような結果を残していければと思います。

――昨年の日本選手権では10位だったとはいえ、本気で五輪代表に挑戦するレースを経験されました。その成果については?

 勝てませんでしたが、4年に一度というプレッシャーを味わうことができたのは、これからまた同じものを狙うという中では良い経験だったと思います。プレッシャーも自分の思っていた以上にすごかったし、「狙うだけでこれだったら出るとなったらもっとすごいんだろうな」と感じられただけでも良かったと思います。

練習は、日本と米国の「良いとこ取り」を

――実業団に入ってからは、米国を拠点にしたいと考えているようですが?

 今、世界の長距離界では米国が一番伸びてきているというのがあるので、そこで何か吸収できれば良いかなというのと、練習環境ですね。僕は高地トレーニングに憧れがあったので、長期合宿のような形で米国にいて、日本のレースに合わせるというイメージです。

――場所はどの辺りを考えていますか?

 まだ自分の脚が完璧ではないので交渉などはしていませんが、アリゾナ州のフラッグスタッフを考えています。昨年5月のカーディナル招待のあとで下見に行って、施設も整っていたので。

――一緒に練習する予定の選手たちのレベルは?

 僕と同じくらいで(1万メートルの記録で)27分台後半ですね。オレゴンなどへ行くと27分台前半の選手もいますが、まずは高地に体を慣らすような地道なことからやっていこうと思っているので、そのくらいのレベルが練習相手にはちょうどいいかなと思います。とりあえずは、自分の脚の状態と走りが戻ったら動きだすという形です。

――まずは1万メートルで勝負できる力をつけたいということですか?

 そうですね。日本だと駅伝もある中で区分けをするのが難しいかな、というのもあるので。将来はマラソンをやるつもりですが、いきなりマラソンだと体が持たないと思うので、ハーフ、30キロというように1〜2年かけてうまく段階を追っていこう思っています。

――そのためにもまずはトラックでスピードをつけなければということですね。

 スピードがつかないとマラソンでも勝負できないと思っています。やはり2時間4分、5分(の記録を狙う)となってくると、最低でも(1万メートルで)27分30秒くらいのスピードは必要になって来ると思います。

――米国へコーチ留学をしたカネボウの高岡寿成コーチによれば、練習でも走行距離は少ないようですね。

 日本のような、駅伝や長い距離の走り込みで得るものもあると思うし、僕自身もその方法で力をつけてきたかなという感じもあります。でも米国の選手が短い距離の練習で力をつけているというのにも興味はある。良いとこ取りかもしれませんが、そういうのを経験したいというのが一番です。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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