学生対社会人のミスマッチ=ラグビー日本選手権のあり方を問う

向風見也

大学最強王者も金星ならず

大学王者・帝京大(赤)もトップリーグ強豪にはかなわず。パナソニック(青)が難なく退けた。日本選手権での学生対社会人のあり方が問われる 【写真:アフロスポーツ】

 前人未到の大学選手権4連覇を果たした帝京大は、鍛えた大男たちが肉弾戦で真正面から低く突き刺さる。単純なぶつかり合いでは、格上相手にも通用すると感じた。

 対するパナソニック ワイルドナイツは、時には気おされ、球を乱し、それでも攻め続ける。日本最高峰トップリーグでは三洋電機時代を含め、6季連続で4強以上の強豪だ。控え主体のメンバー構成だったこの日とて、ブレの少ない技術と陣地獲得のうまさを示した。

 前半はわずか5点差と接戦も、しだいに赤い守備網がもろくなる。具体的には、相手に身体をぶつける際の肩の位置がやや高くなった。疲れか。否。「学生はそんなにクタクタになっていないようでした」。帝京大の岩出雅之監督は言った。この人、競技そのものや勝負に対する観察眼を、恐るべき執念で磨いてきたベテラン指導者である。

「社会人の反応スピードの速さもあって……。要所、要所の集中力に欠ける部分、判断に余裕のない部分もあった。判断(を支えるもの)って、予測と勇気だと思うんです。けど、予測ができなかった。相手は見えていたのですが、横(仲間)の選手の力量を見ながら前に出たり、というコミュニケーションができなかったかなと。ここが抜かれるか、というところが抜かれていましたから」

 いつもの学生同士のゲーム以上に球を速く、正確に回される中、隣の選手と足並をそろえながら守りの組織を保つことが徐々に難しくなった。それが、個々の肩の位置に表れていたのだ。

 54−21。東京・秩父宮ラグビー場での日本選手権2回戦・第2試合は、日本有数の強豪が学生チャンプを難なく下した。2013年2月10日、敗れた指揮官は来季に向けてこう言った。

「来年は、目をつむってぶつかっていくことのないような(社会人に対する)慣れを作っていきたいと思います」

“いびつ”な日本選手権として定着

 シーズンを締めくくる日本選手権は、社会人王者と大学王者の一騎打ちという形で1963年に発足。当初は興行面で成功した。ラグビー人気全盛期は、比較的練習量が多かった学生がしばし先輩をうっちゃり、喝采を集めたものだ。

 とはいえ、常にその存在意義が問われてきた。社会人勢の強化が進んで番狂わせの可能性が減った90年代後半からは、出場チーム数が増減を繰り返す。現在はトップリーグの6チーム、次年度から同リーグに昇格するチャレンジシリーズ1位、大学選手権上位2校、草の根を支える全国クラブ選手権王者の10団体が参戦。正味の話では、「いびつな形」といった評判が定着している。今回勝ったパナソニックの某選手も、声を潜めてこう話した。

「大学生も、クラブ王者も、日本選手権で優勝するのは、ほぼ不可能に近い。僕らもトップリーグでの優勝を目標にしているし……。日本選手権のあり方は、考えた方がいいと思う」

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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