学生対社会人のミスマッチ=ラグビー日本選手権のあり方を問う

向風見也

ワンサイドゲームという事実

帝京大は善戦したものの、実際にはパナソニックのワンサイドゲームという印象が残った 【写真は共同】

 苦言を呈すのは、4年連続大学日本一の岩出監督も一緒だ。今の組み合わせでは、学生王者は1回戦でクラブチーム、2回戦でトップリーグ上位陣と戦うこととなる。「敗戦後の会見では負け惜しみのように聞こえてしまうので、初めからお話しすると……」。この冬の大学選手権決勝の直後から、指揮官はこうくぎを刺していた。

「クラブ選手権の代表とやらせていただくのも、社会人のトップ4とやらせていただくのもミスマッチだと思います。ゲームは、五分と五分(同士の対戦)が面白い。自分たちがトップリーグのチームのどの位置にいるかが分かる組み合わせにしていただけると、本当はありがたいです。それが一番、学生の強化になるんじゃないかと思います」

 救いは、帝京大にはこうした指揮官の論説を曲解し、意気消沈する選手が限りなくゼロに等しいことだ。「試合は勝つためにやる」という前提が、日本選手権2回戦に限っては覆される。難しいのでは。次期主将のスタンドオフ中村亮土は即答した。「トップリーグは自分たちより上のレベル。そこにどうチャレンジするかがテーマ。勝ち負けもありますけど、内容にこだわって、何が通用するかを見いだしていけたらと思っています」。ある意味、岩出監督とのコンセンサスは取れていた。

 六甲ファイティングブルとの初戦を115−5と制して迎えたパナソニック戦。帝京大は、1年生ナンバーエイト坂手淳史が爆発的なタックルを連発する。戦前の弁では、「先輩からも次はレベルが違う、言われています。でも、自分はそれを知らない状態で決めつけたくない」。スタンドを埋めた判官びいきを、十分、うならせた。

 ただ、「ひたむきな学生が社会人に善戦も及ばず」と語られても良いこのカードは、結局、「現行システムが生んだワンサイドゲーム」との印象を与えたのもまた事実だった。

春から冬へ、社会人へのチャレンジは続く

「来年は、トップリーグのチームに挑戦できるチームを1年間かけて作ります」

 今年の日本選手権が始まってから、岩出監督はこう連呼している。春先から都内のトップリーグクラブと合同練習やトレーニングマッチを行い、冬の直接対決に向けて「目をつむってぶつかっていくことのないような慣れ」を醸成させるようだ。2回戦を前に、「チームの底力」を「身体」に例えてこんな話をしていた。

「学生の幸せとは何か。4年間の幸せ、そして未来の幸せ。そのために生活をしっかりしろとずっと言っていたけど、ラグビーの質もそうじゃないかと。でも、身体が小さいうちにでっかい制服を着たらぶかぶかじゃない? ちょっとずつ肉をつけてきて、来年はトップ4のチームに勝つとはいかないまでも年間通してチャレンジすると。かといって、学生を軽視するわけじゃないですよ」

 パナソニックは準決勝に進出し、トップリーグを制したサントリーと戦う。一方、岩出監督が「こう言った手前、次はどんな言い訳をするか……」と冗談めかす帝京大は、2012年度のシーズンを終えた。来年の今ごろ、即時改正を求められる現行システムが次回も変わらない場合は、その動向により注目が集まりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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