千葉を制した頭脳派集団が誇りを示す=高校選手権・注目校紹介 八千代編

平野貴也

最大の武器は状況判断を適切に行う冷静さ

予選決勝のPK戦を制した八千代。南(中央)は守護神のPK戦での強さについて語った 【平野貴也】

 全国高校サッカー選手権大会予選の最激戦区の千葉を制したのは頭脳派集団だった。前回優勝校の市立船橋や高校年代の最高峰「プレミアリーグ」のイーストで高校勢トップの3位と健闘した流通経済大学付属柏がしのぎを削る千葉県予選は近年、そのレベルの高さから注目を集めている。八千代は今季、夏の高校総体に県大会2位で出場し、その際は準決勝で市立船橋をPK戦の末に撃破した。そして今大会の予選では決勝で流経大柏にPK戦勝ち。強力なライバルを下して2度の全国切符を勝ち取った実力は本物だ。

 八千代は今季の公式戦ではPK戦で4戦全勝という成績を収めている。FW南直志は守護神・藤川佳祐について、「あいつの勝負強さは何なんですかね。練習では普通に入るんですけど。本番に強いってやつですか? まあ、決勝では(自分がPKを失敗したので)助けられました」と笑って話した。南が語るように藤川の大活躍なしに今季の成績は語れない。「チームメートの癖を探っているうちにPK戦のコツをつかんだ」という藤川はトーナメント戦では何よりも心強い存在だ。

 フィールドは前線に185センチの附木雄也、最終ラインに186センチの柳育崇と185センチの中村凌太朗という長身選手がそろい、見た目にはフィジカル勝負のチームに見える。しかし、実際には選手たちが自身で状況判断を適切に行う冷静さが最大の武器だ。今季から指揮を執ることになったOBの豊島隆監督はあまりプレーの方法を指定しない。「彼らは全体がよく見えているので、練習からあまり言うことはない。夏は総体後に運動量が落ちて遠征などで勝てなくなった時期があったが、走力の問題なのでわたしは気にしていなかった。それでも、選手は自分たちで話し合いを行って修正しようと努力していた」と教え子たちの自主性を評価し、尊重している。実際に取材を通しても「わからない」とか「意識していない」というコメントがほとんど聞かれないという点にも、選手が普段から自分で考えて行動していることがうかがえる。

初戦の相手は「くせ者」立正大淞南

 チームのスタイルはオーソドックスなボックス型の4−4−2。攻撃は附木のポストプレーと南のドリブル突破が特長で、左サイドからMF桑元麟太郎とDF永戸勝也が絡む形が多い。一方で、守備は全体の距離間をコンパクトにした状態でプレッシングを行い、ゴール前では屈強なツーセンターが体を張る。頭脳派と言っても、見た目には他チームと変わらない。しかし、選手自身が目的意識をしっかりと持つからこそ、戦術の遂行力やプレーの成功率、対応力で差が生まれる。前線でフォアチェックをかけるFW南にボールの奪い所を聞くと「うちのチームは後ろが大きいからプレッシャーをかけて、相手に苦し紛れのロングパスを蹴らせれば空中戦で勝てる」と答え、不敵に笑った。

 県予選決勝の流経大柏戦や、プリンスリーグ関東最終節の大宮ユース戦では風上のエンドになったときに、強風を生かして一気に攻勢をかけるなど、チームとして戦い方が巧みだ。興味深いのは初戦の相手がセットプレーやボールキープの時間稼ぎなどを得意とし「くせ者」と呼ばれる立正大淞南(島根)というポイントだ。プリンスリーグ最終節では偵察に訪れた立正大淞南の南健司監督を附木と柳が手洗い所で発見した。附木は「相手の監督が変装して来ていたんですけどバレバレでした。でも、結構研究されてそうですね」と笑いながらも気を引き締めていた。

「八千代でもやれる」

頑張れば大きな舞台で活躍できることを証明したいと意気込む主将の柳 【平野貴也】

 八千代の目標は全国優勝だ。高校総体は東福岡(福岡)に1−2と敗れ初戦で敗退した。GK藤川は「高校総体では千葉県代表としてふがいない戦いをしてしまった。その借りを返したい」と話す。そして、南は「市立船橋や流経大柏だったら……と比較される。それをくつがえし、納得してもらうには優勝しかない」と全国最激戦区を戦い抜いた誇りを示した。

 主将の柳にはその戦いぶりを見てもらいたい理由として、FWをやっていた鹿島ジュニアユース時代のエピソードが背景にある。柳は1年次に途中出場などでプレーの機会を与えられていたが、2年になっても出番は増えなかった。そして3年生の夏、チームは日本クラブユース選手権U−15の全国大会に出場。晴れ舞台となるはずだったが、大会初日にベンチ外だと告げられて、その場で号泣したという。「あの時の気持ちは、今でも一番強いモチベーションになっている。高校に行ったら絶対に試合に出るんだと決意し、県予選決勝の前夜もあのときを思い出した。中学生のときに試合に出られない選手でも、頑張れば大きな舞台で活躍できるということを証明したい」と強く意気込んだ。

 千葉には柏レイソル、ジェフユナイテッド千葉といったJクラブがあり、前述の市立船橋や流経大柏といった強豪高校がある。八千代に集まるのは、サッカー一筋で将来を嘱望される選手ではない。そんな彼らが3年間の集大成で見せるべきものは「八千代でもやれる」の一言に集約される。全国最激戦区に身を置き、自立し、団結し、堅実に努力の道を歩んできた。八千代はその誇りを胸に、6年前のベスト4を超える躍進を目指す。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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