中田新監督が久光製薬にもたらした変化=女子バレー

田中夕子

1人1人が“自分は何をすべきか”を考える

久光製薬を3年ぶり3度目の優勝に導き、選手たちに胴上げされる中田久美監督 【写真は共同】

 ウイニングポイントは、新鍋理沙のレフトからのスパイクだった。クロスに放ったスパイクで25点目をもぎ取り、3−1。会心の逆転勝ち、そして優勝の喜びを分かち合うべく、コートに歓喜の輪ができた。

 24日に宮崎県の都城市体育文化センターで行われた天皇杯・皇后杯全日本選手権の女子決勝で、久光製薬スプリングスは東レアローズを3−1で破り、3大会ぶり3度目の優勝を飾った。

 勝利の瞬間、久光製薬の中田久美監督はいすに座ったまま、静かに喜びをかみしめていた。
「1人1人が仕事を果たしてくれた。素直にうれしいです」
 中田監督が“妹”と称する、セッターの古藤千鶴は「結果を出せてホッとした」と安堵(あんど)の涙を流していた。その姿を確認し、抱擁を交わすと、中田監督の目から涙がこぼれた。
「本当に一生懸命やってくれた。もらい泣きしました」

 監督に就任した当初から、日本一を目標に掲げてきた。まだリーグ戦の最中とはいえ、バレーボールの三大タイトルの1つとされる、天皇杯皇后杯全日本バレーボール選手権で、チームとして3年ぶりの優勝を果たし、指揮官として初タイトルを獲得した。照れくさそうに「もらい泣き」とごまかしながらも、満面の笑みがその喜びの大きさを物語っていた。

 新監督の就任で、チームは劇的に変わった。ミドルブロッカーの平井香菜子はこう言う。
「今までは、練習でも試合でも『こうしたらいい』と答えが与えられることが、どこかで当たり前のことだと思っていました。でも久美さんは違う。ヒントは与えてくれるけれど『答えは自分たちで考えなさい』という監督なので、自分たちでどうすべきか、常に考えなきゃいけない。今まで以上に、1人1人が“自分は何をすべきか”を考えるようになりました」

2セット目からの巻き返しにつながった監督の言葉

就任後は誰もが“中田効果”を実感。対戦相手も久光製薬の意識の変化に驚きを隠せない 【坂本清】

 変化の程を感じていたのは、久光製薬の選手たちだけではない。10月の国体決勝に続いて、天皇杯皇后杯の決勝でも対戦した東レのセッター、中道瞳も“中田効果”を感じとっていた1人だ。

「久光製薬は1人1人の能力が高い。でも時折、集中力を欠いて崩れ出すもろさもありました。それが中田監督になって、びっくりするぐらい少なくなった。監督の求心力で、こんなにも意識が変わるのか、と驚きました」

 天皇杯皇后杯の決勝でも、まさにそれを象徴する場面があった。
 大事な立ち上がりであるにもかかわらず、第1セットは攻撃に硬さが目立ち、5本もブロックポイントを献上。安易なスパイクミス、サーブミスも続く悪循環をなかなか立ち切れず、終わってみれば17−25と一方的な展開で東レに1セットを難なく与えてしまう。

 タイトルの懸かった試合での、最悪のスタート。中田監督も「ダメかもしれない」と覚悟していたと言う。しかし、第2セットが始まると、それまでの展開が一変する。
 第1セットは打数の少なかったミドルの平井、岩坂名奈を積極的に使い、勝負強さを誇る新鍋に要所を託した。決して特別なことではない。ただ、セット間に監督が発した「サーブレシーブは返っているから、1本で決まらなくても、何度もつないで決めればいい」という言葉が、古藤に落ち着きを与えた。

「あれだけ一方的に第1セットを取られても、絶対に自分たちの力で何とかしてやろうと、モチベーションを高く持ち続けることができました。『相手とケンカしろ』と言い続けてくれた監督のおかげで、全員の意識が去年までとは明らかに違った。その結果が、2セット目以降の巻き返しにつながりました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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