中田新監督が久光製薬にもたらした変化=女子バレー
石井、長岡と期待の若手を積極起用
石井(青)ら有望な若手を積極的に起用する久光製薬。次世代のさらなる突き上げが期待される 【坂本清】
「今季は、石井(優希)、長岡(望悠)を育てること。チームのためだけでなく、それが全日本の強化にもつながるはずです」
ともに3年目のウイングスパイカー。今夏のアジアカップにも選出された次世代の代表候補として期待のかかる選手だ。
成長のためには、まず経験を重ねることを第一とする中田監督は、2人をリーグ戦の開幕からスタメンで起用した。サーブレシーブの安定感に加え、インナーやストレートなど相手からすれば「ここに来る?」と思うような際どいコース打ちを得意とする石井。そして、東九州龍谷高校時代から動き出しの速い攻撃と、サウスポーから繰り出すしなやかなスパイクを武器とする長岡。どちらもそれぞれの長所を生かし、V・プレミアリーグのみならず、天皇杯皇后杯でも試合出場を重ね、監督の期待に応える活躍を見せた。
新戦力の台頭、育成は大事なテーマではある。しかし、光の当たる場所がある反面、陰となって控えに回り、チームを支えるポジションに徹しなければならない選手も出てくる。特に、サイドの層が厚い久光製薬で、その役割を担ったのが石田瑞穂だ。
若手育成のためとはいえ、誰だって試合に出たい。中田監督も「相当ストレスがたまっているはず」と案じていた。それでも自身の役割を果たすことが、チームのためになると、石田はアップゾーンからコートの選手に積極的に声をかけ、常にモチベーションを絶やさず、準備を重ねてきた。
「ベンチスタートということは、どんな理由があれ、自分の力不足でもある。だからこそ、出番がめぐってきたら活躍すればいいし、今のこのチームでどうアピールするかということが、自分の価値を上げることだとプラスに考えられるようになりました」(石田)
3年ぶりの優勝は通過点に過ぎない
成長のためにと、積極的な起用を明言している以上、中田監督は、石井、長岡を単に「調子が悪いから」という理由だけでは交代させない。期待が高いからこそ、自らの役割を再認識させるために、時に辛らつな言葉で表現する。
「天皇杯皇后杯準決勝、決勝に臨むにあたって、石井とミーティングを重ね、彼女に期待すること、心掛けを伝えてきました。それなのに、あの程度かと。石田や新鍋が控えにいる状況を作ってでも、責任を持たせたいと思って使ってきました。でもだからといって、決して特別なわけじゃない。その程度じゃ、いくらでも代わりはいるんだぞと、思い知らせるために交代させました」
翌日の決勝、石井は最後までコートに立ち続けた。そして石田は、長岡に代わって3セット目から投入され、準決勝に続いて勝利の立役者となった。
時に厳しく、各々のすべきことを再認識させる。それこそが、中田監督の言う「全員が戦力」となるバレーであり、それを実践することで、久光製薬が3年ぶりの女王となった。
それぞれの思いがこもった涙の優勝。だがそれも、今はひとつの通過点にすぎない。誰より強く、そのことを理解しているのは、他ならぬ中田監督自身だ。
「目指すのは、富士山の頂上ではなくて、世界の頂点。この優勝をこれからにどう生かすかが、次の課題です」
またひとつ、高い頂(いただき)を目指して。そのために、今は一歩ずつ。ただひたすら、前へ――。
<了>