チェルシー、“鶏肋”なクラブW杯をチャンスに変える=ブーイングのない世界で見るベニテス采配

平床大輔

指揮官の説得力ある采配、漂う威厳

チェルシーはマタ(中央)とトーレス(左)のゴールなどでモンテレイに圧勝。原点回帰のスタメン起用が功を奏した 【写真:AP/アフロ】

 あるいは、ラファエル・ベニテスは彼に対するブーイングのないユーラシア大陸の反対側で、プレッシャーをさほど感じずに、のびのびと自身の仕事に専心できているのかもしれない。

 好意的な日本のファンに見せる穏やかな表情。ダビド・ルイスの中盤起用という大胆なトライと、マタ、アザール、オスカルの同時起用への回帰を両立させ、危なげない勝利をたぐり寄せたモンテレイ戦の采配の持つ説得力。試合後のコメントに漂う威厳。彼は圧勝とも言える試合の後に、クリーンシート(無失点試合)が達成できなかったことを悔やみ、「勝者のメンタリティーについて語るとき、わたしは常に細部が違いを生み出すのだと語るのです」と、自身のチームに対し勝って兜(かぶと)の緒を締めよと言わんばかりの言葉を投げかけている。

 どれも、就任直後にサポーターから万雷のブーイングを浴びていた数週間前のベニテス監督には見られなかった姿であり、光景であった。しかし、事実として、“ラファ”・ベニテスの表情は多少引き締まったように見え、彼の率いるチームは一癖ありげな北中米王者を全く寄せ付けないゲームを披露した。

ハイリスク・ローリターンのトロフィー

“鶏肋”(けいろく)という故事成語がある。全くもってビッグディール(たいしたこと)ではないけれど、捨てるにはちょっと惜しいもの。このクラブワールドカップ(W杯)のトロフィーは、チェルシーにとって鶏肋みたいなものである。

 今季、欧州チャンピオンズリーグからの敗退が決定した今、チェルシーのプライオリティーは国内リーグ、すなわちプレミアリーグに置かれている。マンチェスターを本拠地とするライバルたちとの勝ち点差と残り試合数を考えると、王座奪還は夢物語ではない。そして、そのプレミアリーグが繁忙期を迎える12月の約3分の1をチェルシーはこの大会のために国外で過ごさなくてはならない。

 勝って当たり前の大会。負ければ大失敗。ハイリスク・ローリターンのトロフィー。しかし、トロフィー獲得に満足しないサポーターはいない。もし獲得できれば風当たりは若干弱まるはずだ。また、指揮官の手腕次第では、そのトロフィー獲得を新たな上昇気流の発生に結びつけることができるだろう。プレミアリーグと天秤(てんびん)にかけるとビッグディールではないけれど、残りのシーズンを考慮するとそれなりに意味のある、捨てるには惜しいトロフィー。まさに鶏肋である。

マタ、アザール、オスカルの同時起用という原点回帰

 そんな状況をチェルシーはアドバンテージに変えようとしている。トロフィーのもたらす効用を見据えつつ、格下相手の初戦をちょっとしたテストの舞台にしたのである。冒頭でも述べたダビド・ルイスをセントラルMFとする試験的要素の強い起用法は、見事に奏功し、マンチェスター・シティ戦以来5試合ぶりとなるマタ、アザール、オスカルの同時スタメン期用はチェルシーの攻撃を活性化させた。

 そもそも、シーズン序盤に快進撃を見せたチェルシーの最大の魅力は、この3人が織り成すダイナミズム溢れる攻撃だった。しかし、ベニテス監督は就任1戦目こそ、この3人をフェルナンド・トーレスの下に並べたのだが、その後、主にモーゼスを右サイドに起用することにより、流動性を排し、守備時のポジショニングというバランス重視の戦術を採用してきた。それが、ここへ来ていきなりの原点回帰である。

 これが愛想のいい日本のファンに気を良くした結果なのか、あるいはモンテレイを恐るるに足らずと見た上の選手起用だったのか、その辺はよく分からないが、とにかく、この日のチェルシーは、うっかりミスとしか言いようのない試合終盤の失点を除き、ゲームを通してプラクティカルかつ見た目に楽しいフットボールを展開した。

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著者プロフィール

1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」米国で過ごすも、94年のワールドカップ・米国大会でサッカーと邂逅(かいこう)。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿

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