チェルシー、“鶏肋”なクラブW杯をチャンスに変える=ブーイングのない世界で見るベニテス采配

平床大輔

ダビド・ルイスの中盤起用は捨てがたいが……

哲学が似たコリンチャンスとの決勝ではどんなラインアップを組むのか。ベニテス監督(右)の采配に注目したい 【写真:ロイター/アフロ】

 こうなると決勝のラインアップが気になってくる。というのも、決勝で対峙するコリンチャンスは、クラブに根付く戦術的な哲学がチェルシーに似通っているように見受けられるからである。ソリッドな中盤から繰り出すショートカウンター。これはすでにチェルシーにとってネイチャーとも言えるアイデンティティーだ(この根幹をいじろうとした指揮官は過去に例外なく失敗している)。

 そして、準決勝の対アルアハリ戦で見せたコリンチャンスのスタイルも、ほぼ同系統のものであった。規律と統制のとれた中盤は飽くまでソリッドであり、8番をつけたパウリーニョのダイナミックな攻撃参加はかつてのランパードを思い出させた。ただ、ひとつに気になったのは、相手に押し込まれる展開になると、必要以上にデフェンスラインを下げてしまう点である。

 チェルシーが突きたいのは、まさにそこである。相手が意識的に引き、スペースの消された状況でも仕事ができるのがマタであり、アザールであり、オスカルである。モンテレイ戦の成功であらためてこのトリオそろい踏みに手応えをつかんだであろうベニテス監督は、決勝でもこの3人を並べてくるだろう。

 チェルシーにとっての懸念点は、コリンチャンスで左サイドを任されるそれなりに怖いエメルソンとマッチアップする右サイドバックの選択だ。モンテレイ戦ではアスピリクエタが右サイドバックを務めたが、決勝ではイバノビッチをぶつけるのが理想だ。となると、必然的にダビド・ルイスをセンターバックに下げざるを得ず、中盤にはラミレスが入ることになる。しかし、ダビド・ルイスの中盤起用はなかなかに捨て難い。この辺、ベニテス監督がどのようなマネジメントを見せるのか、ぜひ注目したい。

転換期を迎え、一時代の最後の輝きを放つ

 また、フットボール的には不純な注目ポイントになるのかもしれないが、チェルシーの美人メディカルスタッフ、エバ・カルネイロさんの活躍も勘定に入れておきたい。試合終盤、足をつる選手が出て試合が中断したとしても、トイレやビールの補充に走ってはいけない。その状況こそ、真剣な面持ちのカルネイロさんを見られる絶好のタイミングなのである。

 この決勝戦は、フットボールファンにとって、恐らく、日本で“ブルーズ”(チェルシーの愛称)のユニホームを着て真剣勝負に臨むランパードの姿を見る最後の機会になるだろう。もしかしたら、それはチェフにも当てはまるかもしれない。そんなクラブの転換期にあるチェルシーは、一時代の最後の輝きを放つべく、日本で行われるこの大会のトロフィーを獲得し、それを弾みに変えようとしている。もしかしたら、我々はチェルシーというクラブにとって意味深いチャプターを目撃する幸運に浴しているのかもしれない。

<了>

(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)

2/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」米国で過ごすも、94年のワールドカップ・米国大会でサッカーと邂逅(かいこう)。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント