“カオス”のシーズンを制したベッテルの底力=居場所を失った可夢偉が迎える苦境

田口朋典

タイトル争いの形勢は一気に逆転したが

最終戦までし烈なタイトル争いを繰り広げたベッテル(左)とアロンソ(右)。わずか3ポイント差の決着となった 【Getty Images】

 2012年のF1世界選手権最終戦、ブラジルGPが終わった。最終戦の覇者はマクラーレンのジェンソン・バトン。2位にフェラーリのフェルナンド・アロンソ、3位に同僚のフェリペ・マッサが入り母国での表彰台を獲得した雨の一戦は、まさにセバスチャン・ベッテルvs.アロンソ、両雄によるタイトル争いの最終決戦にふさわしい激闘となった。

 この戦いを前に、ポイントリーダーであるベッテルと、2位アロンソのポイント差は13。10ポイント差で迎えた前戦アメリカGPではルイス・ハミルトンが優勝、ベッテルは2位、アロンソは3位となり、ポイント差が開いた。ベッテルに流れが傾いた状態で迎えたブラジルGPでは、好調のマクラーレン勢がインテルラゴスでフロントローを独占し、ベッテルは予選4番手。アロンソはパストール・マルドナードの降格によって繰り上がり、ようやく7番グリッドを得るという状況に、ベッテルのさらなる優位が予想された。

 しかし、雨が降り始める中、スリックタイヤで迎えたスタートは、ベッテルが出遅れ、アロンソは好発進を切った。さらにオープニングラップの4コーナーでは、イン側にノーズを差し込んだブルーノ・セナと接触したベッテルがスピン。誰もが予想だにしなかった最後尾に後退してしまう。一方のアロンソは、2周目の1コーナーでマーク・ウェーバーを押さえ込むフェリペ・マッサの好プレーで早くも3番手に浮上するなど、タイトル争いの形勢は一気に逆転した。

史上最年少での3連覇

 しかし、ここでレッドブルは「ダメージを負ったのは間違いないが、ピットに戻っても修復できない」とマシン修復のためにピットに入ろうとしたベッテルを、コース上でステイアウトさせた。左後部のフロアや内部のエキゾースト付近にダメージを負っていたベッテルは、多少空力的なマイナス面はあったが雨の中では大きなディスアドバンテージにはならず、見事な追い上げを見せる。レッドブル陣営は、タイトル争いの重要な局面で今一度、チャンピオンチームにふさわしい冷静な判断力と問題の解析能力の高さを垣間見せたといえる。

 一方、アロンソもレース巧者としてのパフォーマンスをいかんなく発揮する。トップを争う2台のマクラーレン勢、そしてニコ・ヒュルケンベルグには届かないまでも、ベストマシンとは言い難いF2012を駆り、表彰台をうかがえる位置を堅持していく。さらには無線で「コース上のデブリ(パーツの破片)が多過ぎる」とアピール。序盤に起こったクラッシュによって散乱したパーツの破片は、ニコ・ロズベルグのバーストの一因ともなっていたが、これをアピールすることで結果的にセーフティーカーをコース上に引きずり出すことに成功した。無論、タイヤ選択やピットインタイミングなどの複雑な状況下で、数十秒差をつけて大きく先行していた上位陣とのギャップをセーフティーカーによって帳消しにするという計算が、アロンソや陣営にあったことは間違いない。

 断続的に降る雨の中、レッドブルとフェラーリの両陣営、ベッテルとアロンソの両雄による持てる力をすべて繰り出しての激闘が展開されたのである。

 だが、その激闘の果てにつかんだリザルトはアロンソ2位、ベッテルは6位。もし優勝していれば、ベッテルが5位以下ならば逆転王座を獲得することとなっていたアロンソは終盤、「(トップを走る)ジェンソンか、セバスチャンに何か起こってくれればと考えた」とその心中を吐露。チェッカー後には一時、ベッテルがイエローフラッグ下で小林可夢偉を抜いたのではないか、それによってペナルティーが科せられれば、アロンソが2位でもタイトルを手中にできる、8位以降にベッテルが降格させられるのではとの憶測も飛んだが、そんなアロンソの一縷(いちる)の望みも現実のものとはならず、ベッテルが史上最年少での3連覇という偉業を成し遂げることとなった。

わずか3ポイントというきん差

“カオス”と称された今シーズン、20戦を戦って来たベッテルとアロンソが獲得したポイントは、281と278。その差はわずか3ポイントだった。序盤はマシンパフォーマンス的に苦戦を強いられながらもアロンソがポイントを手堅く稼いで選手権をリード。一方のベッテルも大きくマシンレギュレーションが変わった今季は、昨年ほどにはハードウェアのアドバンテージもない中、後半に見事巻き返した。3ポイントという差を考えれば、アロンソにスパ(ベルギーGP)と鈴鹿で、スタート直後のアクシデントさえなければ十分タイトルに手が届いていたとの見方もできるが、その一方でベッテルにもオルタネーターのトラブルがなければ、との考え方もある。

 総合的に見て、今年の両雄はまさにがっぷり四つだったのかもしれない。その拮抗(きっこう)した戦いが凝縮されたようなインテルラゴスだった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。大学卒業後、趣味で始めたレーシングカートにハマり、気がつけば「レーシングオン」誌を発行していたニューズ出版に転職。隔週刊時代のレーシングオン誌編集部時代にF1、ル・マン、各種ツーリングカーやフォーミュラレースを精力的に取材。2002年からはフリーとなり、国内外の4輪モータースポーツを眺めつつ、現在はレーシングオン誌、オートスポーツ誌、CG誌等に執筆中。自身のブログ“From the Paddock”(スポーツナビ+ブログで)では、モータースポーツ界の裏話などを披露している

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