“カオス”のシーズンを制したベッテルの底力=居場所を失った可夢偉が迎える苦境
タイトル争いの形勢は一気に逆転したが
最終戦までし烈なタイトル争いを繰り広げたベッテル(左)とアロンソ(右)。わずか3ポイント差の決着となった 【Getty Images】
この戦いを前に、ポイントリーダーであるベッテルと、2位アロンソのポイント差は13。10ポイント差で迎えた前戦アメリカGPではルイス・ハミルトンが優勝、ベッテルは2位、アロンソは3位となり、ポイント差が開いた。ベッテルに流れが傾いた状態で迎えたブラジルGPでは、好調のマクラーレン勢がインテルラゴスでフロントローを独占し、ベッテルは予選4番手。アロンソはパストール・マルドナードの降格によって繰り上がり、ようやく7番グリッドを得るという状況に、ベッテルのさらなる優位が予想された。
しかし、雨が降り始める中、スリックタイヤで迎えたスタートは、ベッテルが出遅れ、アロンソは好発進を切った。さらにオープニングラップの4コーナーでは、イン側にノーズを差し込んだブルーノ・セナと接触したベッテルがスピン。誰もが予想だにしなかった最後尾に後退してしまう。一方のアロンソは、2周目の1コーナーでマーク・ウェーバーを押さえ込むフェリペ・マッサの好プレーで早くも3番手に浮上するなど、タイトル争いの形勢は一気に逆転した。
史上最年少での3連覇
一方、アロンソもレース巧者としてのパフォーマンスをいかんなく発揮する。トップを争う2台のマクラーレン勢、そしてニコ・ヒュルケンベルグには届かないまでも、ベストマシンとは言い難いF2012を駆り、表彰台をうかがえる位置を堅持していく。さらには無線で「コース上のデブリ(パーツの破片)が多過ぎる」とアピール。序盤に起こったクラッシュによって散乱したパーツの破片は、ニコ・ロズベルグのバーストの一因ともなっていたが、これをアピールすることで結果的にセーフティーカーをコース上に引きずり出すことに成功した。無論、タイヤ選択やピットインタイミングなどの複雑な状況下で、数十秒差をつけて大きく先行していた上位陣とのギャップをセーフティーカーによって帳消しにするという計算が、アロンソや陣営にあったことは間違いない。
断続的に降る雨の中、レッドブルとフェラーリの両陣営、ベッテルとアロンソの両雄による持てる力をすべて繰り出しての激闘が展開されたのである。
だが、その激闘の果てにつかんだリザルトはアロンソ2位、ベッテルは6位。もし優勝していれば、ベッテルが5位以下ならば逆転王座を獲得することとなっていたアロンソは終盤、「(トップを走る)ジェンソンか、セバスチャンに何か起こってくれればと考えた」とその心中を吐露。チェッカー後には一時、ベッテルがイエローフラッグ下で小林可夢偉を抜いたのではないか、それによってペナルティーが科せられれば、アロンソが2位でもタイトルを手中にできる、8位以降にベッテルが降格させられるのではとの憶測も飛んだが、そんなアロンソの一縷(いちる)の望みも現実のものとはならず、ベッテルが史上最年少での3連覇という偉業を成し遂げることとなった。
わずか3ポイントというきん差
総合的に見て、今年の両雄はまさにがっぷり四つだったのかもしれない。その拮抗(きっこう)した戦いが凝縮されたようなインテルラゴスだった。