フットサル日本代表にかけた指揮官の魔法=巧みな雰囲気作りとカズの影響

北健一郎

進歩するカズが与える影響

チームのポジティブな雰囲気にカズ(中央右)が与える影響は少なくない 【写真:松岡健三郎/アフロ】

 ブラジル戦では冷静な判断で試合を終わらせ、ポルトガル戦では怒りの感情で選手を奮い立たせ、リビア戦では笑顔を見せて緊張から解き放つ。硬軟自在のミゲル監督のメンタルコントロールがなければ、初めてのグループリーグ突破は不可能だったはずだ。

 もう一つ、ミゲル監督の手腕で特筆すべきは1カ月前にチームに合流し、本格的なフットサル経験がほとんどない「カズ」がいるなかで結果を出したということだ。一つのミスが命取りになりかねないシビアな状況で、カズをピッチに送り出すのは、並大抵の勇気ではできない。カズを呼ぶだけ呼んで、本番では全然使わないのではないか……。そんな風に予想する声もあった。しかし、ミゲル監督はカズを全試合で起用した。

 ポルトガル戦では相手のエース、リカルジーニョのとのマッチアップで完敗。リビア戦でもディフェンスで裏をとられてピンチを招くなど、フットサルの洗礼を受ける形になった。それでも、ミゲル監督はカズに「これほど早くフットサルに順応した選手はいない」とポジティブな言葉をかけ続けた。

 45歳の日本サッカー界のレジェンドがフットサルに前向きに取り組み、ちょっとずつ進歩している。そのことが、W杯で強豪相手に臨む選手たちに与える影響は小さくない。そうしたピッチ内外のことを加味したうえで、ミゲル監督はカズをピッチに送り出していた。それがチームの雰囲気を作り出す要因になっているのも確かだ。

マイナスをパワーに変えるポジティブな空気

 ここまではシナリオ通り、いや、それ以上と言っていいだろう。そして、11月9日、日本にさらなる追い風となりそうなニュースが入ってきた。

 スペインと当たる可能性が濃厚だった決勝トーナメント1回戦の相手が、ほかのグループの結果によってウクライナになったのだ。「スペインとウクライナでは試合の位置づけは大きく変わります。スペイン戦ならば私たちにとっては自分たちの実力をぶつける試合になる。ウクライナであれば、よりリアルに勝利を狙っていける相手です」(ミゲル監督)

 ウクライナとは10月27日に北海道・旭川で親善試合を戦って、カズのフットサル初ゴールも飛び出して3−1で勝った縁起のいい相手である。ミゲル監督が「世界でも一、二を争うレベル」と評する鋭いカウンターアタックは要注意だが、突出した個人技を持っている選手はいない。日本がポルトガル戦の後半に見せたようなパフォーマンスを出せれば、十分勝つチャンスはある。

 その一方で不安材料もある。逸見勝利ラファエルが出場停止で、リビア戦で負傷退場した高橋健介も右眼窩底(かてい)骨折で離脱。ウクライナ戦にはその2人が出場できない。ミゲル監督は「残念がっても仕方ありません。今いる選手たちがカバーし合って、100パーセント以上のものを出してもらいたい」とチーム全体の奮起をうながす。

 2人の欠場は戦力面で考えれば、完全にマイナスである。しかし、それすらも勝つためのパワーに変えてしまいそうな、そんなポジティブな空気が今のミゲルジャパンにはある。11月11日のウクライナ戦、ミゲルジャパンは新たな歴史の扉を開くことができるか。

<了>

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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