スポーツの最先端に学ぶトレーニング理論=NBAの現状と世界で活躍する日本人スタッフ

永塚和志

日本人選手でもNBAでやっていける

日本人選手もNBAでやっていけると語る吉田氏。ただ、ストレングスに関しての情報や知識が日本のバスケ界には足りないという 【Courtesy of D. Clarke Evans NBAE/Getty Images】

 しかし、ここまで紹介したのはあくまでNBAの話だ。これが日本のバスケットボールの話となれば別。母国のバスケットボール事情を憂慮する吉田氏は、日本人選手には筋力などの基礎的な体力が決定的に足りていないとする。

 もちろん、先にも少し触れたが、がむしゃらにバーベルを挙げればいいというものではない。体の強化にも順序というものがある。最終的には筋力を獲得するにしても、まず始めるべきことはウェイトトレーニングよりも基礎体力をつけることだ。長期的なスパンで考える際、12〜13歳の“ゴールデンエイジ”の間に体の柔軟性や安定感などの動きの基礎となる要素を作り出すことに注力し、高校生くらいになれば今度はウェイトトレーニングなどで筋力をつけていくというアプローチが理想的であると吉田氏は言う。

 ただし、ムーブメントトレーニング自体はそれらすべての要素に対応しているため、どの世代の選手が行っても有効な手法であるということも氏は付け加えた。

 NBAといえどもプレーする者がすべてスーパーマンなわけではない。例えばスパーズにもダンクのできないガード選手はいる。それでもドライブの速さやフローターなどのシュートのうまさでリーグでもトップクラスの選手に数えられている者もいる。そうしたことを考慮しても、身長の小さな日本人選手であってもNBAでやっていけるはずだ、と吉田氏は説く。

 ただし、「やはりNBAの最低限持っていなければならない体力レベル、スピード、当たりの強さがないとプレーはできないです」と吉田氏は続ける。残念ながら今の日本のバスケットボール環境を見ると、ストレングスに関しての情報や知識が少なく、普及もまだ不十分だ。また、選手が自らに合ったストレングス手法を探すための選択肢も少ない。

「将来は日本のバスケットボール界に寄与したい」

 2004年にフェニックス・サンズでプレーした田臥勇太以来10年近く彼に続く日本人NBA選手が出ておらず、一方で日本男子代表は五輪出場から36年も遠ざかってしまっている。このため息の出るような状況を改善するために、日本のバスケットボール界はストレングスという見地からも真摯(しんし)に力を入れるべきではないだろうか。

 日本のバスケットボール選手にぜひ伝えたい……。このスポーツの最先端を知る吉田氏は力強く、こんなメッセージを残した。

「米国の選手は日本の選手よりも何倍もハードに練習しています。単純に生まれ持った能力だけではなく、さまざまな努力と経験を激しい競争の中でしているのです。世界に追いつくためには世界の基準での練習とトレーニングが必要だと強く感じます」
 
 将来は日本のバスケットボール界に寄与したいと考えているという吉田氏。しかし米国にいる今現在からすでにできることはないかと模索している。

「僕たちのような指導者が選手へ理想的な環境を提供できれば、日本からもNBAで活躍できる選手が出てくる可能性は十分にあると思っています。僕自身はその可能性をかなりポジティブにとらえていますよ」

 吉田氏のような日本人が個人レベルながら海外で道を切り開こうとしているのは、この国のバスケ界にとってある意味で光だ。だから今度は日本のバスケットボール界や選手たちが「世界基準」を自らつかみ取ろうとしなければ、現在の暗たんとした状況は打破されないのではないか。

<了>

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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