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兵役義務が韓国サッカーに及ぼす影響とは
“国防”と“夢”の狭間で悩む選手たち

韓国国民の4大義務

ロンドン五輪の3位決定戦で日本に勝利し、喜ぶ韓国の選手たち。銅メダル獲得と同時に、兵役義務も免除された
ロンドン五輪の3位決定戦で日本に勝利し、喜ぶ韓国の選手たち。銅メダル獲得と同時に、兵役義務も免除された【写真は共同】

 某スポーツ紙記者から一本の連絡が入った。

「ロンドン五輪のサッカーで3位になった韓国代表は兵役が免除されましたが、今、韓国内では兵役免除についてどのような見方があるのでしょうか?」


 確かに軍隊を持たない日本では、韓国の兵役についてはなじみがなく、そこまで関心が高いわけではない。連絡をしてきた記者のように韓国国内の事情を知らないのも当然だ。

 ロンドン五輪サッカーで3位になった韓国代表の選手たちが兵役を免除されたというニュースは報じられたが、韓国国内でどのような動きがあったのかを知る人は少ないに違いない。今、韓国でスポーツと兵役義務の関係はどのようにとらえられているのだろうか――。


 韓国の有力紙記者が熱く語り始める。

「韓国国民の4大義務は『納税の義務』『教育の義務』『勤労の義務』『国防の義務』です。『国防の義務』が兵役義務なのです。大韓民国の男性は、この義務を遂行してこそ社会で一人前と認められるのです」


 大韓民国憲法第39条には「すべての国民は国防の義務を負う」とあるが、軍隊を持たない日本にとって『国防の義務』という言葉にはなじみがなく、イマイチぴんと来ないだろう。


 だが、韓国では幼いころからこの義務を自然と意識するようになるという。

「『私は、分断された祖国、大韓民国の国民である。それゆえ、大韓民国国民としての義務と権利を行使せねばならない』という言葉を自然と口にしていましたね。だから、高校を卒業する前になると周りのみんなが“国防の義務”を意識するようになっていました」(同記者)

アスリートにとっては大きな壁に

 しかし、一方でスポーツ選手などには兵役義務が免除になる条件がある。それが兵役法施行令第47条の2(芸術・体育要因の公益勤務要員推薦など)1項4号に記された「オリンピックで3位以上、アジア大会1位に入賞した選手(団体競技種目の場合は、実際に出場した選手だけ該当する)」という内容だ。


 ロンドン五輪で銅メダル以上を獲った韓国人選手たちは、その適用を受けたわけだが、サッカーで日本との3位決定戦に勝利した韓国代表の選手たちも同様。大会期間中、サブのメンバーも含め、すべての選手が免除となった。


 その中にはオーバーエイジとして出場したパク・チュヨン(セルタ/スペイン)を筆頭に、日本になじみの深い選手だと元大宮アルディージャのキム・ヨングォン(広州恒大足球倶楽部)、サンフレッチェ広島のファン・ソクホ、元セレッソ大阪のキム・ボギョン(カーディフ・シティ/イングランド)、京都サンガのチョン・ウヨン、ジュビロ磐田のペク・ソンドンらがいた。


 しかし、以前から同世代の代表メンバーに選出されてきた選手の中には、ロンドン五輪メンバーには選ばれなかったため、兵役の義務が残されたままの者もいる。


 大宮アルディージャのチョ・ヨンチョルもその一人だ。彼はこのことについて沈黙を守っているが、“語りたくない”のが本音だろう。その複雑な心境は計り知れない。


 しかしながら、ロンドン五輪の3位決定戦で日本と対戦した韓国には鬼気迫るものがあった。それはやはり、「兵役免除がかかった試合」だったからだと思うが、なぜこれほどまでに必死になるのか。


 それは一般的に考えられる「過酷な軍隊生活を送りたくないから」という単純な発想ではないと前出の記者が説明する。


「約2年の軍隊生活で、スポーツに専念できなくなるのは致命的です。例えば、海外でレギュラー争いをしている立場にいる選手が2年いなくなれば、どうなります? そのポジションは当然ありません。だからこそ、ロンドン五輪の3位決定戦は何がなんでも勝たなくてはいけなかったんです。その気持ちのモチベーションが日本戦の勝利につながったと言われてもしょうがない。勝つか、負けるかで、その後の人生が大きく変わると思ったら、死ぬ気で戦うでしょう」


 確かにほかの競技の韓国プロスポーツ選手もこんな意見を述べていた。

「一部の競技で、例えば五輪に出場するためには4年間、厳しいトレーニングを積まないといけない。この期間の軍入隊はすべてのことを泡にしてしまう」


 つまり優秀なスポーツ選手にとって、“国防”は義務なので果たさなければならないが、自分の夢や将来を見据えた場合には大きな壁となって立ちはだかり、その狭間で悩み続けるアスリートが多いというわけだ。

キム・ミョンウ
キム・ミョンウ

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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