兵役義務が韓国サッカーに及ぼす影響とは=“国防”と“夢”の狭間で悩む選手たち

キム・ミョンウ

パク・チュヨンの措置は法的に問題なかったが

移民のための法を、兵役延期の手段として利用していた疑いをもたれたパク・チュヨン(左)は釈明会見を開くはめになった 【写真:ロイター/アフロ】

 そんな悩みに長らくさいなまれていたのが、オーバーエイジ枠で出場したパク・チュヨンだ。

「兵役につく期間を伸ばしていたパク・チュヨンにはロンドン五輪が最後のチャンスでした。メディアからはいろいろなことを書かれていましたが、兵役免除となってようやく肩の荷がおりたことでしょう。しかし、五輪前から韓国国内ではパクの兵役免除問題を取り巻いて、さまざまな意見が交わされていたのです」

 パクはKリーグのFCソウルでプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせ、05年から08年まで通算23ゴール。その後、ASモナコに移籍し、08年から11年まで通算25ゴールと活躍した。昨年からアーセナルでプレーしたが結果を残せず、今年8月から1年間、期限付き移籍でリーガ・エスパニョーラのセルタでプレーしている。

 今は結果を残せていないとはいえ、韓国を代表するゴールゲッターであることを国民は認めている。現に、16日に行われるワールドカップ・ブラジル大会のアジア最終予選でグループ首位の韓国は、アウエーでグループ2位のイランと対戦するが、パクはメンバー入りを果たしている。

 そんなパクがなぜ兵役問題の渦中にいたのか。韓国の大手スポーツ紙記者が教えてくれた。

「パクは兵役免除がかかった国際大会に4度(ロンドン五輪含む)、出場しています。06年のドーハアジア大会、08年北京五輪、10年広州アジア大会に出場しましたが、いずれも免除にいたる結果を残せませんでした。それでロンドン五輪が最後のチャンスだったわけです。ただ、選出されるまでの過程で、パクが兵役を伸ばし続けていることが問題視されたのです」

 パクは昨年9月、永住権制度がないモナコ公国で10年以上の長期在留資格を取得し、37歳まで兵役義務延期の許可をもらった。韓国の現行の兵役法には、永住権制度がない国で5年以上の在留資格を取得し、該当する国で1年以上、居住すれば37歳まで国外旅行期間を延長できる規定が存在する。つまり、パクの措置は法的に問題ない。

 だが、これに対してメディアは「代表選手が移民のための法を兵役延期の手段として利用しているのではないか」と騒ぎ始めたのだ。

改善策を見いだしていけるのか

 この事態を収拾すべく、パクは五輪代表のホン・ミョンボ監督の同席のもと、6月にソウルで会見を開き、「兵役義務を延期したのは、決して兵役を回避するためではない。ASモナコでサッカーに対するさまざまないい部分をたくさん学びたかったし、ヨーロッパサッカーに対してもっと学びたい気持ちがあったからだった」と説明した。また、「大韓国民の国民として必ず兵役義務を遂行する」とも語っていた。

 最終的には兵役免除となったが、もしも五輪3位という成績を残せなければ、軍に入隊する覚悟はできていただろう。

 パクの件に関して言うならば、韓国メディアはそこまで騒ぐ必要はなかったのではないだろうか。監督はその選手を必要と判断すれば招集するし、呼ばれた選手はその期待に応えればいいだけの話だ。実際、パクは3位決定戦でゴールという結果を残して周囲を黙らせた。

 一方で兵役を経た選手が各競技で活躍しているのも事実で、「兵役があるから精神的に強い」と表現する人も多いが、断言はできない。徴兵制がスポーツに与える影響には良し悪しがある。

 いずれにせよ、昔も今も変わらず、韓国のスポーツ選手に「国防の義務」が重くのしかかっているのは事実。今回のパクの騒動をきっかけに、改善策を見いだしていけるのかが今後の課題かもしれない。

<了>

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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