3連勝のベッテルが戦い続けた“見えない敵”=ランキング首位浮上、アロンソとの一騎打ちへ

吉田知弘

3連覇に一歩近づいたベッテル

3連勝でランキング首位に浮上したベッテル。シューマッハ以来となる3連覇に一歩近づいた 【Getty Images】

 2012年F1世界選手権の第16戦韓国GP決勝が14日、ヨンアムの韓国インターナショナルサーキットで行われ、2番手スタートのセバスチャン・ベッテル(レッドブル)が通算25勝目となる今季4勝目を挙げた。また、ポイントランキングでもフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)を上回り首位に立った。

 スタートで好ダッシュを決めたベッテルは、直後の1コーナーでポールポジションスタートのマーク・ウェバー(レッドブル)をかわしトップに浮上。そこからはファステストラップを連発し、徐々に後続を引き離す“ベッテルらしい”独走劇を披露した。このまま行けばベッテルの独走優勝は確実だったが、レース終盤に“見えない敵”と戦うことになる。

 35周目に交換したソフトタイヤも、周回を重ねるうちに消耗が進んでいった。チャンピオン争いに大きく影響する1戦だと分かっていたチームは、タイヤのトラブルによる失速やリタイアを防ぐため、「タイヤをいたわる走りを徹するように」という指示を出す。しかし、チームの心配をよそにベッテルはアクセルを緩めなかった。

 この時点で2位ウェバーとの差は約10秒。もちろん、ペースダウンすればタイヤを守ることができるが、序盤から築いてきた10秒の貯金を崩すことにもなってしまう。もし、そこで“タイヤ以外のトラブルやアクシデント”が起こってしまったら、1位の座を他のドライバーに明け渡すことになりかねない。そのリスクを少しでも避けるため、ベッテルは後続との差を保ちつつ、タイヤに大きな負担をかけない程度に攻めることをやめなかった。最終的に2位ウェバーに8.9秒後方に迫られたが、無事にマシンをゴールまで導き、第14戦シンガポールGPから続くアジアでの戦いに3連勝。トータル215ポイントとしたベッテルは、第5戦スペインGP以来、約5カ月ぶりにランキング首位の座をアロンソから奪い返した。

 過去7度のドライバーズチャンピオンを獲得したミハエル・シューマッハ以来となる3連覇に一歩近づいたベッテル。「これから、きっとタフな争いになるだろう。チャンピオン争いというのは、たった1つの出来事でランキングに大きく影響するし、これから何が起こるか分からない。残り4レース、とにかくわれわれができるベストなレースを1つずつやっていくのみだ」と、表彰式後のインタビューであらためて気を引き締めなおした。

アロンソはどう巻き返すのか

 アロンソが今季3勝目を飾った第10戦ドイツGP。この時点で44ポイント後方にいたベッテルに逆転されると、誰が予想していただろうか。

 開幕から不調が騒がれていたフェラーリチームだったが、名門らしい総合力で毎戦ポイントを獲得し、シーズン前半は完ぺきにアロンソに流れが傾いていた。ところが9月の第12戦ベルギーGPから、その流れが少しずつ変わり始めた。スタート直後の多重クラッシュに巻き込まれたアロンソは今季初のリタイア。さらに前回の第15戦日本GPでもスタート直後にキミ・ライコネンと接触してスピン。ここ数戦で2度の0ポイントレースを演じてしまう。

 一方、後半戦から勢いを取り戻したベッテルはシンガポールGP、日本GPと2連勝。3カ月前には44ポイント開いていた差が、わずか4ポイントに迫られ、韓国GPを迎えた。

 レッドブルチームは今回も予選から圧倒的な速さでフロントロー(最前列)を独占。決勝でもスタートからベッテルがトップを奪って独走した。アロンソも3位に順位を上げるが、前回の日本GPから本来の速さを取り戻したベッテルの勢いを止められない。今後のチャンピオン争いのために1ポイントでも多く稼ごうと、終盤は2位のマーク・ウェバーを追いかけたが、追い抜くまでには至らず、3位でチェッカーを受けた。

 これでポイントランキング首位の座をベッテルに奪われたアロンソ。レース内容としては完敗だったが、表彰式後のインタビューでは「今回のレッドブルは本当に速くて手も足も出なかった。だけど、今週末はベストを尽くしたし、チームのパフォーマンスには満足している。レッドブル勢を再度逆転するための対策を練らないといけないね」と前向きなコメントを残した。これまで2度のチャンピオンを経験し、多くのチームで逆境を跳ね返す勝利を何度もつかんできた名手アロンソは“今回負けたこと”を悔やむのではなく、“この状況から王座を勝ち取るためにできること”をすでに模索し始めていた。その答えが、今回韓国GPでは「今の状況下でベストを尽くし、1ポイントでも多く稼ぐこと」だったのだろう。

 このアジアラウンドで形勢が一気に逆転し、ベッテル優勢に傾いたチャンピオン争い。一方、打つ手がなくなり始めているアロンソは今回の敗戦を冷静に受け止めつつも、今出来ることを全てやり尽くした上で、どう巻き返してくるのか。

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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