日本代表を進化させる「本田圭佑」というスパイス=卓越した戦術眼とリーダーの資質を読み解く

トップ下は本田か香川か?

本田圭佑がいないと日本代表の攻撃は停滞することが多い 【松岡健三郎】

 本田圭佑と香川真司、この2人が同時期にプレーしているのは、日本代表にとって大きな幸運に違いない。

 2人のプレースタイルは異なるが、文字にしてみると意外にもよく似ている。2人ともトップ下が本職。敵の間でパスをしっかりと受けられる。現代のサッカーにおいて、この資質は非常に重要だ。2人とも優れたプレーメーカー、チャンスメーカーでありストライカーでもある。最も能力が発揮できるのはトップ下だが、サイドでもボランチでもやれる。クレバーで運動量が豊富、スピードもあり、チームのためにプレーできる。

 日本にはワールドクラスのトップ下が2人いる。機能性がよく似ているので、場合によっては共存が難しいケースだ。ところが、本田と香川の共存は全くといっていいほど問題にならない。複数のポジションをこなせるという共通項があるからだ。

 アルベルト・ザッケローニ監督は本田をトップ下に起用し、香川を左サイドに使う。本田を右サイドに置き、香川のトップ下でも問題ないと思うが、ここは監督の選択だ。サイドプレーヤーとしては、香川のほうが適性があるとみているのだろう。サイドの選手には、よりスプリント能力が求められる。本田も足が遅いわけではないが、機動力という点では香川のほうがサイド向きなのだ。

 一方、中央のプレーヤーとして本田が優れているのはフィジカルコンタクトの強さだ。敵に寄せられても体でブロックできる強さを持っている。香川には鋭いターンやステップワークでコンタクトを外す能力があるので、もちろん中央でもやれるし、本人としてはより広範囲に動けて得点チャンスも多いトップ下のほうが好みだろう。ただ、一般的に言えば強さのある本田のほうが中央向きとみられるのは妥当なところだ。

 実際の試合では、香川は中へ入ってくることが多い。左サイドには長友佑都が上がってくるので、タッチライン際に張り付く必要がない。本田と香川は、ともに相手の守備ブロックのすき間にポジションをとってパスを受けることになる。

 “間で受ける”能力に秀でた受け手が2人もいるのは、パスの出し手にとっては心強い。しかも、本田と香川は近い距離で連係できるのが大きい。簡単に言えば、守備ブロック内の本田にパスをつなぎ、それを香川につなぐだけで、彼らの周辺にスペースができる可能性はかなり高いのだ。例えば、長友が走り込む左サイドがガラ空きになったり、岡崎慎司が狙うディフェンスの裏が空きやすくなる。

磁力としての本田と香川

 本田と香川は、言わば時代の申し子である。現代のサッカーを勝ち上がるためのプレーヤーだ。

 彼らは敵と敵の間の、しかもごく狭いスペースでパスをコントロールできる。つまり、“間で受ける”能力が高い。この能力が重要なのは、基本的に前方へのパスはそこにしか受ける場所がないからだ。

 80年代の後半から、サッカーはゾーンディフェンスが主流になっていった。ACミランが起爆剤となって世界へ普及した守備戦術は、21世紀に入るとどのチームにとっても当たり前のものになっている。コンパクトな守備ブロックはアタッカーから時間と場所を奪い、その中でどうプレーするかが課題になっていった。

 その模範解答を出したのが、バルセロナでありスペイン代表だった。

 コンパクトな守備ブロックの中では、どこをどう動いてもスペースは空かない。裏へ走ればオフサイドになり、横に動いても敵が並んでいる。そのかわり、ゾーンには必ずすき間がある。大きな空間はないかわりに、守備者と守備者の間には必ず小さなすき間がある。シャビやアンドレス・イニエスタを筆頭に、ゾーンのすき間にパスを出し、受けられる選手が台頭したことで、ゾーンディフェンスの崩壊が始まった。

 ゾーンのすき間、つまり守備者と守備者の中間地点にパスをつなぐと、ゾーンの網の目は収縮する。縮むことで攻撃側の時間と場所を削りとるのがゾーンの性質だからだ。ただし、全体が同時に収縮することはありえない。1カ所が収縮すると、その近くの守備者の間隔は必ず広がる。ボールに近い場所から、順番に収縮するだけなのだ。

 すると、1カ所の“間”にパスをつなぐだけでも守備側の優位性は失われ、主導権は完全に攻撃側へ移行する。時間と場所を奪い、袋小路に追い込むはずの守備戦術は、時間と場所を奪い損ねることで、次のプレーで攻撃側により多くの時間と場所を提供せざるをえないからだ。

 ゾーン崩壊の序章を飾ったのは、ジネディーヌ・ジダンだった。2〜4人の敵の間でパスを受け、収縮させてボールを逃がす。ジダン1人だけでも、チームには相当な恩恵をもたらしていた。現在のバルセロナでは、シャビ、イニエスタ、リオネル・メッシ、セスク・ファブレガスら、ピッチの至る所でそれが行われている。

 そして、日本には本田と香川がいる。

 この2人は言わば人間磁石。敵の間でパスを受け、敵を引き寄せることで、ゾーンのブロックに穴を開けることができる。

 すき間でパスを受けるときは、少なくとも2人以上の敵の動きを間接視野でとらえながら、タックルを予測し、的確にボールを逃がしたり隠したりできなくてはならない。ボールをコントロールしながら敵の動きを感じる能力が高くなければ、ここでボールを受けることはできないわけだ。

 アジリティー(敏しょう性)の問題もある。適切なタイミングで受けるポイントへ動き、止まり、止まりながらコントロールして、また動く。コントロールの瞬間には脱力が必要だが、動いて停止して脱力して再スタートする運動を高い次元でこなすには、それなりの筋力やバランス感覚が問われる。

 本田、香川のパスを受けるときの動作は、ぴたりとキマっていて、あまりブレていない。

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