フジカキの銀はラッキーではない! 世界に見せた日本バドミントンの実力

折山淑美

フジカキ、スエマエも充実ぶりを見せた

スエマエは組み合わせの悪さに泣いたが、充実した試合を見せた 【写真は共同】

 ただ、無気力試合での有力チームの失格で獲得できた銀メダル、というイメージが付いたのも否めない。それについて藤井はこう言う。
「試合前にいろいろな問題もあったし、ラッキーというかチャンスをものにできたというか……。でも私たちだからできたというより、タイミングとかいろんなことが重なってこのような結果につながったんだと思います。だから、『私たちだからメダルを獲れた』という感じでもないので」

 こうは言うが、事実上の準決勝といえるデンマーク戦で快勝したのは事実だ。さらに五輪レースで世界ランキング5位を維持し、第4シードになったからこそ幸運も転がり込んできた。それは二人の、1年間の五輪レースの努力が結実した結果でもある。

 また前回の北京五輪4位だった末綱聡子/前田美順組(ともにルネサス)は、同じ組に世界ランキング3位の中国と同6位のデンマークがいるという、組み合わせの悪さに泣いた。それでも初戦でデンマークを2−1で破る、好スタートを切った。だが、中国がデンマークに敗れたことで混戦になり、ゲーム数差で準々決勝進出を逃すという惜しい予選敗退だった。だが日本バドミントン界としては、中国や韓国とともにフジカキ、スエマエの2ペアの出場権を得たという充実ぶりの片りんは、見せることができたといえる。

佐々木、王者相手に互角の戦い

佐々木も王者相手に、大接戦を繰り広げた 【写真は共同】

 さらに男子シングルスでも、佐々木翔(トナミ運輸)が世界ランキング1位で連覇を果たした林丹(中国)を相手に敗れたとはいえ、準々決勝で素晴らしい試合をした。

 第1ゲームは中盤に7連続得点を許すなど、林の試合運びのうまさにやられて12−21で落としたが、第2ゲームは序盤に先手を取った。中盤の追いつかれて14−14と並ばれたが、そこから4連続得点で突き放すと、そのまま21−16で追いついたのだ。

 林に先手を取られたファイナルゲームは、一時は7−14とリードされ、そこで決着がついたかと思われた。しかし、佐々木がそこからすさまじい粘りをみせ、6連続得点で13−14と迫る。最後も持ち味の攻撃的なバドミントンで粘りに粘ったが、林の王者としてのうまさにやられて16−21で敗れた。だが王者を相手にした佐々木の健闘は、場内の観客にも感動を与えた。

「佐々木の健闘は勝ちにも等しいもの。あの試合で王者・林丹にも『侮れない相手』という印象を与えたのは大きい」と日本バドミントン協会の関係者は言う。佐々木の最終順位は5位。肉体改造などの努力でコツコツと積み上げてきた彼の世界ランキング7位という位置が確かだったことも、この試合で証明されたと言っていいだろう。

世界へ立ち向かう勇気を与えた結果

「北京の男女ダブルスで4位、5位という結果を出して以来、ロンドンでのメダル獲得を目標にしてきた。出足でつまづいたので難しいかと思ったが、フジカキのデンマーク戦の勝利で勢いがついた。五輪という舞台は100%の力を出すのが難しいところだが、男子の佐々木は100%の力を出し切ってくれたし、女子ダブルスのスエマエも1次リーグ敗退とはいえ、持っている力を出してくれた」と日本チームの舛田圭太コーチは言う。

 それも北京五輪以来、各所属チームが「世界のメダルが近づいてきた」と、国内大会より日本代表としての海外の大会を重視してくれるようになった成果だとも言う。

 世界でのレベルが中国に次ぐ位置までいっている女子ダブルスだけではなく、選手層の厚い男子シングルスでも大舞台で世界のトップと互角に戦え、苦しめられることを証明した。今回の結果は、次に控える選手たちにも、世界へ立ち向かう勇気を与えたはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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