「もうひとつの決勝戦」宿命の対決に沸く韓国

慎武宏

国民の90パーセント近くが勝利を確信

ブラジルには敗れてしまったが、韓国(赤)は英国などを倒してベスト4まで勝ち上がってきた 【Getty Images】

 韓国がロンドン五輪サッカー3位決定戦の話題で沸いている。

「運命の韓日戦で韓半島、トゥグントゥグン(ドキドキ)」(テレビ/SBSスポーツ)、「韓国サッカー、今回は血が飛ぶ韓日戦だ」(一般紙/世界日報)「韓日戦は銅メダルをかけた韓日戦、もうひとつの決勝戦」(スポーツ新聞/スポーツワールド)、「3位決定戦の韓日戦、韓国サッカー史上最高のビッグマッチ」(ジョイニュース)。テレビや新聞、インターネットのスポーツニュースでトップを飾るのは、いずれもサッカーの話題だ。

 それも無理はない。韓国サッカー史上初のメダル獲得のチャンスがかかっている上に、相手は宿命のライバル・日本なのだから盛り上がらないわけがない。

 試合は11日午前3時45分のキックオフ(日本時間)となるが、決戦当日は2002年日韓ワールドカップ(W杯)時の熱狂で有名になったソウル市庁舎前の広場がふたたび真っ赤に染まることも決まった。韓国代表サポーター集団“レッドデビル”が呼びかけ、大韓サッカー協会やKリーグもそれをサポートするという。地上波テレビ中継も、KBSとSBSの全国ネット2局が同時生放送する入れ込みようだ。

 もちろん、関塚隆監督率いる日本代表への取材合戦も盛んだ。日韓対決が決まって以来、筆者のもとにも数多くのメディアから電話があるし、インターネットでは日本の報道が少しの時間差を置いてすぐにアップデートされている。もともと関塚ジャパンの動向は、スペインを下して以来、韓国でも詳しく報じられてきた。エジプトに勝利して準決勝進出を決めたときには、毎日経済新聞で「優勝を狙う日本、虚風ではない」という見出しとともに、こんな記事も掲載されている。

「日本は集中力があり、タイトな守備で相手の攻撃を遮断した。スペインを下したのは決して偶然ではない。実力の勝利だ。戦術的に高く、選手たちは身を惜しまない。強い精神力でまとまっている。十分に優勝を狙える資格がある。関塚ジャパンは明らかに強豪で優勝候補だ」(8月5日付・毎日経済新聞)

 ただ、それでも当然のことながら韓国の勝利を確信する声が多い。インターネット・ポータル最大大手の『naver』が実施したアンケート調査(8月9日時点)では、韓国の1点差勝利が43.4パーセント(1万8名)、2点差勝利が40.57パーセント(9422名)、PK戦勝利が5.98パーセント(1388名)と90パーセント近くが韓国の勝利を確信している。

守備は安定、課題は決定力不足

 実際、今大会の韓国は集中力とモチベーションを発揮してきたチームだ。欧州や日本でプレーする海外組10名、Kリーグ組8名。そのうち8名が現役A代表ということから、Uー23韓国代表は大会前から「史上最強チーム」とされてきたが、その期待通り、グループリーグではメキシコと0−0で互角に渡り合い、スイスに2−1で勝利。カボンに0−0に引き分けグループ2位となり、準々決勝で開催国・英国と対戦する試練に遭遇したが、1−1で迎えた延長戦も守り抜きPK戦も制して、初のベスト4進出を決めた。

 試合を重ねるごとに安定感を増していったのはディフェンスラインだ。もともとコンパクトなラインをしいて全選手が献身的に走り守るのがこのチームの特長だが、実は大会前はディフェンスが不安視されていた。アジア最終予選で活躍したホン・ジョンホが4月にけがでリタイアし、オーバーエイジ(OA)として有力視されていたイ・ジョンスは所属クラブの協力を得られず、国内最終合宿ではチャン・ヒョンスも負傷離脱。代わってマルチDFのキム・チャンスがOAとして加わり、キム・ヨングォンとファン・ソクホが急造的にセンターバックコンビを組むことになったこともあって、一抹の不安が付きまとった。

 だが、大会直前のニュージーランド戦(7月14日)から息を合わせる急造センターバックコンビは、試合を重ねるごとに安定感が増し、サプライズ人選のキム・チャンスは右サイドバックとして果敢なオーバーラップと労を惜しまぬ運動量を披露し、グループリーグ突破時には「8強進出の功臣」とまで言われているほどの活躍を見せたほどだった。

 逆に試合を重ねるごとに指摘されるのは、決定力不足だ。4−2−3−1を基本布陣としながら前線からも果敢にプレスを仕掛け、奪ったボールをうまく散らしながら得点機を作る。しかし、その割りには決定力が低い。メキシコ戦(韓国11、メキシコ9)、スイス戦(韓国18、スイス9)、カボン戦(韓国15、カボン15)、英国戦(韓国16、イギリス12)とシュート数でもほぼ優勢を誇るが、英国戦までの4試合で決めたゴールは3得点のみ。ク・ジャチョル、キム・ボギョン、チ・ドンウォンら豊富なタレントをそろえるだけに、ファンもメディアもゴールの少なさにやきもきした感情を隠せない。

 とりわけOA枠のパク・チュヨンへの視線は厳しい。もともとアーセナルでの出場機会の少なさゆえに試合感覚を不安視されたり、兵役延期発覚で世論の反発を買ったりと、OA採用には賛否両論があっただけに、スイス戦1得点では世論も納得しない。一部のファンたちの間ではその起用を疑問視する声もある。

 案の定、準決勝ブラジル戦でパク・チュヨンは先発から外れ、英国戦で負傷したキム・チャンス、GKチョン・ソンリョンもベンチに。OAを欠いたチームは序盤こそブラジル相手にチャンスを作ったが、先制を許したあとは力の違いを見せ付けられ、0−3で完敗。後半15分から投入されたパク・チュヨンも流れを変えることはできなかった。

 それだけにブラジル戦後のロッカールームの空気は重かったというが、その重い空気を指揮官ホン・ミョンボ監督の一言が一変させたという。
「肩を落とすのはやめよう。まだ終わりじゃない。われわれには、もうひとつの決勝戦が残っている」

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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