届かなかった金メダル 体操ニッポンが痛感した五輪の難しさ=男子団体決勝

矢内由美子

内村「自分でいい演技をしようと考えすぎていた」

あん馬で大きくバランスを崩した内村。4位の判定が出た際は、半ば放心状態に 【写真:ロイター/アフロ】

「最初、4位と表示されて何も言えませんでした。今まで何やってきたんだろうなと……。そればかり考えていたので、(採点が変わって)2位に上がっても、“メダルが取れた!”とはならなかったですね」

 日本チームが抗議している間、半ば放心状態で最終結果が出るのを待っていた内村は、表彰式では多少の笑顔も見せたが、その表情にうれしさは見られなかった。

 国内合宿の際には、予選を1位で通過し、決勝ではゆかの正ローテーションで演技を行うというシミュレーションをしながら練習してきたため、演技する種目の順番が想定外だったことが大きく響いたのだ。
「出だしからいつものいい演技ではありませんでした。団体決勝はゆかからしかやったことがないので、いつもの感覚と違うところがあって……」

 そこまで言うと、内村は長い沈黙で自分の気持ちを整理しようと試み、そして言った。
「自分で型にはめようとしすぎましたね。自分でいい演技をしようと考えすぎていたのかなと思います」

痛感した五輪の難しさ 雪辱の機会はまた4年後に

 結果的には中国が北京五輪に続いて団体総合連覇を果たし、日本はまたしても敗れた。敗因を聞かれた内村は、「昨年、一昨年と同じミスをしてしまったこと。あん馬に入る前、最後は3人でうまくバトンをつないでいい演技でそろえようと決めていたのですが」と力なく答えた。

 金メダルだけを目指し、個人総合よりも種目別よりも何よりも団体総合に懸けてきただけに、落胆は大きい。
 ただ、前向きになれる要素がないわけではない。2日前の予選で何人もの選手がミスを連発しながら、中1日で立て直しができたことは、今後につながるだろう。
 18歳で最年少の加藤は「(銀メダルは)初代表なのでうれしいという気持ちはある。(得点が変わったのは)少しモヤモヤする部分はあるが、でも、判定が覆った後の得点が正しかったと思う」と話している。

 キャプテンを務めている田中和は「このままでは体操を辞められない」と言う。新しいモチベーションが湧いてきているのだ。
 とはいえ、中国との差は今回も依然として残ったままだ。またしても銀メダルに終わった日本と中国との違いは、ミスがあるかどうか。技のレベルや能力に大きな差があるわけではない。
 日本は、判定が覆ったからと言って、後味の悪さをずっと引きずる必要はない。日本に望まれるのは、目指している美しい演技をどこまで完成の域に近づけられるかだ。
 
 ロンドンで味わった五輪の難しさを克服するチャンスは、また4年後に訪れる。

<了>

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著者プロフィール

北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)

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