“ホークスの救世主”武田翔太がマウンドで笑う理由=鷹詞〜たかことば〜
史上6人目の高卒新人デビュー2連勝
賛否分かれるマウンド上の笑顔。しかし、それでも武田は笑顔を絶やすことはない 【写真は共同】
7月7日の北海道日本ハム戦(札幌ドーム)で1軍先発デビューすると、いきなり5回まで無安打ピッチングの快投を見せて6回1安打無失点で見事初勝利。中6日で臨んだ本拠地ヤフードームでの初登板(14日、千葉ロッテ戦)でも、「少し力が入った」と反省の弁はあったが、同じく6回無失点であっさり2勝目をマークしてみせたのだ。ホークス球団(南海、ダイエー時代も含む)で高卒新人投手がデビュー2連勝したのは史上初めて。プロ球界全体でも1965年のドラフト制度導入後はたった6人しかいない、“本家”ダルビッシュ有(当時日本ハム、現レンジャーズ)や唐川侑己(ロッテ)と並ぶ記録である。
豪速球でも七色の変化球でもない、セールスポイントは「笑顔」
しかし、武田自身がセールスポイントに挙げるのは、豪速球でも七色の変化球でもない。
「僕はファンの皆さんに、笑顔を見てもらいたいです」
と、あどけない表情を見せる。決してニカっと笑うのではない。歯は見せずに口角を上げ、細い目をさらに細くして、優しい表情を作るのだ。
そして、武田はマウンドでも頻繁に笑顔を見せる。マウンドに上がるときも、下りるときも。または打ち取っても、たとえ打たれても、笑っているのだ。マウンドでの笑顔にはやはり賛否両論ある。「相手に失礼」という理由が主だ。特にデビュー戦はビジター球場が舞台だったこともあり、CS中継の解説者にはかなり厳しく非難されていたようだった。
それでも、武田が笑顔を絶やすことはない。なぜ笑うのか、そしてそのルーツは――?
「僕は味方のキャッチャーや野手に向かって笑みを浮かべているんです。それは中学生の頃から。バックを守る野手を盛り上げたいと思ったのが始まりでした」
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「笑顔に関していえば『プラス思考』ですね。それ以前は味方がミスすると心が揺らいでしまう自分がいた。でも、それではダメ。僕が攻(せ)めるのは打者。味方は責(せ)めるべき相手じゃない。だから、『オッケー、オッケー。何個エラーしても大丈夫だよ』と呼びかけるつもりで、守っているみんなに笑顔を見せるようにしたんです」
中学生で始めた“習慣”は、高校生になる頃にはすっかり体に染みついてしまい、「無意識でも笑顔になる」ようになった。それに否定的な意見は高校時代にもあった。それでも「僕は決して打者や相手チームに対して笑顔を見せているわけではない」ときっぱり言いきる。武田はこのスタイルを変えるつもりはないし、筆者個人の意見としてもその姿勢をぜひ貫いて、その中で大きく育ってほしいと思っている。
ホークスの救世主になる――初勝利のヒーローインタビューでは力強い宣言も飛び出した。ホークスは球宴前の前半戦を39勝40敗7分で戦い終えた。借金ターンは16年ぶり。順位は4位も、しかし、首位とのゲーム差は「5」。リーグ3連覇はまだ射程圏内だ。
後半戦も武田は先発ローテにそのまま残る予定だ。笑顔の19歳ルーキーは、今や逆襲のカギを握る立派な戦力である。
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