“ホークスの救世主”武田翔太がマウンドで笑う理由=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

史上6人目の高卒新人デビュー2連勝

賛否分かれるマウンド上の笑顔。しかし、それでも武田は笑顔を絶やすことはない 【写真は共同】

「九州のダルビッシュ」の実力は本物だった。スーパールーキーの登場だ。福岡ソフトバンクホークスの19歳右腕、武田翔太である。
 7月7日の北海道日本ハム戦(札幌ドーム)で1軍先発デビューすると、いきなり5回まで無安打ピッチングの快投を見せて6回1安打無失点で見事初勝利。中6日で臨んだ本拠地ヤフードームでの初登板(14日、千葉ロッテ戦)でも、「少し力が入った」と反省の弁はあったが、同じく6回無失点であっさり2勝目をマークしてみせたのだ。ホークス球団(南海、ダイエー時代も含む)で高卒新人投手がデビュー2連勝したのは史上初めて。プロ球界全体でも1965年のドラフト制度導入後はたった6人しかいない、“本家”ダルビッシュ有(当時日本ハム、現レンジャーズ)や唐川侑己(ロッテ)と並ぶ記録である。

豪速球でも七色の変化球でもない、セールスポイントは「笑顔」

 武田が「九州の――」と呼ばれるゆえんは「宮崎生まれで身長187センチの長身右腕」だけではない。ストレートは今年5月に最速154キロを計測。「高校時代には151キロをマークしましたが、150キロオーバーはその1球だけ。プロ入団後は重点的に体幹を鍛えている成果もあってコンスタントに150キロ以上を投げることができています」と胸を張る。変化球も3種類のカーブや2種類のスライダー、チェンジアップなどを多彩に操るのも「同タイプ」である。

 しかし、武田自身がセールスポイントに挙げるのは、豪速球でも七色の変化球でもない。
「僕はファンの皆さんに、笑顔を見てもらいたいです」
 と、あどけない表情を見せる。決してニカっと笑うのではない。歯は見せずに口角を上げ、細い目をさらに細くして、優しい表情を作るのだ。
 そして、武田はマウンドでも頻繁に笑顔を見せる。マウンドに上がるときも、下りるときも。または打ち取っても、たとえ打たれても、笑っているのだ。マウンドでの笑顔にはやはり賛否両論ある。「相手に失礼」という理由が主だ。特にデビュー戦はビジター球場が舞台だったこともあり、CS中継の解説者にはかなり厳しく非難されていたようだった。

 それでも、武田が笑顔を絶やすことはない。なぜ笑うのか、そしてそのルーツは――?
「僕は味方のキャッチャーや野手に向かって笑みを浮かべているんです。それは中学生の頃から。バックを守る野手を盛り上げたいと思ったのが始まりでした」

野球人生を変えた1冊の本

 きっかけは中学校2年生の秋だった。髄膜炎を発症し入院した武田に、担任の教諭が『メンタルトレーニング』というタイトルの本を手渡した。「その1冊が自分を変え、今の自分をつくり上げました」と語る。
「笑顔に関していえば『プラス思考』ですね。それ以前は味方がミスすると心が揺らいでしまう自分がいた。でも、それではダメ。僕が攻(せ)めるのは打者。味方は責(せ)めるべき相手じゃない。だから、『オッケー、オッケー。何個エラーしても大丈夫だよ』と呼びかけるつもりで、守っているみんなに笑顔を見せるようにしたんです」

 中学生で始めた“習慣”は、高校生になる頃にはすっかり体に染みついてしまい、「無意識でも笑顔になる」ようになった。それに否定的な意見は高校時代にもあった。それでも「僕は決して打者や相手チームに対して笑顔を見せているわけではない」ときっぱり言いきる。武田はこのスタイルを変えるつもりはないし、筆者個人の意見としてもその姿勢をぜひ貫いて、その中で大きく育ってほしいと思っている。

 ホークスの救世主になる――初勝利のヒーローインタビューでは力強い宣言も飛び出した。ホークスは球宴前の前半戦を39勝40敗7分で戦い終えた。借金ターンは16年ぶり。順位は4位も、しかし、首位とのゲーム差は「5」。リーグ3連覇はまだ射程圏内だ。
 後半戦も武田は先発ローテにそのまま残る予定だ。笑顔の19歳ルーキーは、今や逆襲のカギを握る立派な戦力である。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント