勝者にあった団結と自信、そして王者のプランニング=『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』ユーロ2012版

史上初のユーロ連覇を達成したスペイン代表。最強のチームはまた新たな歴史を刻んだ 【Getty Images】

 スペインは準決勝でPK戦の末にポルトガルを退け、グループリーグ初戦と同カードとなった決勝では、イタリアに4−0と圧勝して3度目の優勝を果たした。ラ・ロハ(スペイン代表)を裏から表から楽しむために、現地で記者を密着させた、この特別編。最終回は、前人未到のユーロ連覇を達成したチームの、強さの秘密を明かす。※ミゲル記者のレポートは準決勝までをカバー。

準決勝翌日の家族の風景

 6月27日(水)、ポルトガルを準決勝で破ったスペイン代表は、翌日キエフのホリデー・インに戻った。デル・ボスケはその日の深夜0時まで選手たちに自由時間を与えた。15人の選手は家族が宿泊しているホテルまで移動して食事するなど時間を過ごし、決勝の相手が決まるドイツ対イタリアの観戦を待った。

 カソルラの息子エンソは、シャビ・アロンソの長男ヨンと遊んでいた。セルヒオ・ラモスの両親はピケの両親と談笑していた。アルベロアの娘はファンフランの息子とふざけ合っていた。右サイドバックのレギュラーと控えという関係の父同士の仲が悪ければ、子供たちがそんな仲になるわけがない。レイナの義理の父がジョレンテの兄と冗談を言う。こうした光景を見れば誰もが驚くに違いない。スペインサッカーの歴史を変えたこのチームの真の秘密とは、グラウンド内でも外でも、一つの家族であるということなのだ。

 ある日、この大会でほとんど出番がなく、これからもプレー機会に恵まれそうにない選手と出くわした。あいさつして話をしてみると、彼は状況に失望し、わたしを待っていたのだという。
「ミゲル、つらいよ。受け入れるのは簡単ではないが、抗議する権利はない。チームの調子は良いし、チームのために公平であろうと努め、最善の選択をしようとする監督のことを尊敬するしかない。決勝に出られればいいけど、そうでなければ仲間を応援するだけだ」

 こうしたエピソードに表れているのは、この天使のようにプレーするチームのもう一つの、特別なそしてこの後も繰り返されることがないかもしれない美点だ。誰も個人的な成功を誇示せず、集団のメリットを差し置いて自分の達成感を優先する者もいない。

PK戦の知られざるエピソード

 セルヒオ・ラモスにはポルトガル戦で放ったPK(余裕たっぷりに放り込んだ、ど真ん中へのチップキック)は、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝でGKノイアー相手に失敗したPKの仕返しなのか、という質問が相次いだ。あの時ノイアーに「PKとはスタンドに蹴り込むものだと思わなかった」と言われるなど、散々ばかにされた経緯があったのだ。が、そうした推測はすべて的外れだった。
「誰かに何かを見せつけたかったわけではない。単に自信があって、自分自身を超えようとしただけ。大事なのはチームの3回連続の決勝進出に貢献したってことだ」と彼は答えた。

 スペインは勝者のチームである。
「ポルトガル戦の延長戦とPK戦の前に選手を励まそうとしたが、逆に『大丈夫、絶対に勝ってみせる』と言われた。これまでにも何度か同じ経験をしたが、いつも驚かされる」と理学療法士の一人は証言する。だからこそ、準々決勝フランス戦に勝った後、選手たちはグラウンド上で別段大騒ぎをするわけではなく、アルベロアも決勝までは記念ボールのコレクションを我慢したのかもしれない。

 それほど、このチームにとって、勝利は普通のことになってしまった。デル・ボスケの“ラ・ロハ”はそれだけの成績を残している。公式戦35試合で31勝2分け(今大会のイタリア戦、ポルトガル戦)2敗(09年コンフェデレーションズカップの米国戦、ワールドカップ=W杯・南アフリカ大会のスイス戦)。サッカー選手にとってPKを失敗し歴史に名前を残すことほど残酷なことはないのだが、勝利者たちはポルトガルとのPK戦でも尻込みすることはなかった。

 ピケは試合後、誰も気がつかなかった秘密を明かした。
「プロ生活で初めてのPKだったけど、はっきり見えたから監督に任せてくれ、と申し出た」。初めてといえば、ユーロ2008準々決勝イタリア戦で5人目を任されてチームに勝利をもたらしたセスクも、あれがプロ初体験のPKだった。その彼は今回、助監督のトニ・グランデから2人目に蹴るように言われたが、シナリオの変更を訴えた。「僕のイタリア戦での記憶は良かったから、たぶん同じ終わり方にできるようなひらめきがあった」

実績で周りを黙らせた

 これらの証言から読み取れるのは、彼らが恐怖の代わりに自信を持っていたこと、ナーバスになる代わりに落ち着いていたこと。ドイツW杯で敗れて以来、アラゴネス前監督が種をまいた勝者のスピリッツが、今しっかり花開いている。

 そして、後任のデル・ボスケには最も賢かったという評価しかできない。代理人やメディアの圧力に屈せず、彼は自分とチームの仕事を信じた。セスクをゼロトップにしようと、それまでの出場時間1分のネグレドを1トップに置こうと、もう誰も何も言わない。ポルトガル戦では、シャビ・アロンソを1ボランチとしブスケツを右に回してクリスティアーノ・ロナウドをマークするアルベロアを助けるという、知将らしい策を的中させている。

レポート/ミゲル・アンヘル・ディアス、翻訳/木村浩嗣

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著者プロフィール

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