現代サッカーの過渡期にあるユーロ
ハンドボール化しつつあるサッカーの未来とは

セキュリティーホールの突き合いを、どうとらえるか?

スペインはあえてマークされている左サイドのアルバ(赤)から攻撃を仕掛けることで、フランスの裏をかいた
スペインはあえてマークされている左サイドのアルバ(赤)から攻撃を仕掛けることで、フランスの裏をかいた【Getty Images】

 バランスが取れた状態は、新たなアクションを起こしづらい状態でもある。

 ユーロ(欧州選手権)2012もいよいよ準決勝に突入する。ここまでの同大会の感想だが、ロジカルな戦術の駆け引きに彩られた結果、試合展開が重くなることが多いという印象を抱いている。これは一発勝負の短期大会ならではの特徴とも言えるだろう。


 例えば準々決勝、スペインvs.フランス(2−0)だ。フランスはこの試合、本来は右サイドバックのマチュー・ドゥビシーを右サイドMFに上げ、空いた右サイドバックにはアンソニー・レベイエールを起用するスペイン対策を施した。特徴的なのは、両サイドにおける守備の違いである。スペインの左サイドバック、ジョルディ・アルバの攻撃参加に対しては必ずドゥビシーが下がってマンマークで対応するものの、右サイドバックのアルバロ・アルベロアに対してフランク・リベリーが下がることは少ない。フランスはあえてリベリーを前線に残すことで、左サイドからのカウンターを狙い、得点を挙げる。それがこのシステムの最高のシナリオだったはずだ。


 ところがスペインは、サイドで完全にフリーになっていたアルベロアをなかなか使おうとしない。この試合、アルベロアが受けたパスの総数は29本だが、それに対してアルバは50本。フリーのアルベロアよりも、マークされているアルバの側により多くのパスが回っているのは不自然に思えるが、おそらくスペインはフランスの狙いを読み切り、あえてリベリーから遠い側のサイドから攻めようとしたのだろう。仮にフリーのアルベロアがパスを受けてクロスを放り込んだ場合、フランスはそれを跳ね返すことで左サイドからのカウンターを発動することも可能になる。


 しかし、スペインはその誘いに乗らず、逆にフランスが守備を固めたはずの右サイドのマークがルーズになり、アンドレス・イニエスタのスルーパスからアルバが抜け出してクロス。走り込んだシャビ・アロンソがゴールを挙げた。後半になるとレベイエールがイニエスタをある程度マンツーマンで追いかけるようになり、守備は幾分安定したが、時すでに遅し。攻撃面でも、スペインの囲い込みプレスの速さの前に、リベリーはボールを持っても何も起こせない。終始フランスがスペインの手のひらの上で転がされた試合だった。そしてそのスペインも大半の時間を1−0で過ごし、試合を決定づけるまでに91分もの鈍重な時間を要している。


 このようなロジカルな駆け引きを楽しむファンならば良いかもしれないが、リスクを冒したアグレッシブな攻防を楽しむファンにとっては退屈な試合だったのではないだろうか。一般的に、サッカーの戦術は「作り上げる」よりも「壊す」ほうが易しい。まとまった練習時間や実戦の場が限られる代表チームの試合が、このようなセキュリティーホールの突き合いになってしまうのは致し方のないことでもある。


 とはいえ、「作り上げる」方法が全くないわけではない。その有効な手段をあらためて教えてくれたのが、今回のイタリアである。

クラブ戦術をコピーしたモデルケース

 中盤の底でアンドレア・ピルロを配給役とし、ボールに激しくアプローチするサッカー。チェーザレ・プランデッリ監督は昨シーズン、ユベントスが用いた3−5−2システムのプレッシングサッカーを用い、優勝候補スペインに対して1−1、続く難敵クロアチアに1−1と勝ち点2を積み重ね、グループリーグ突破を現実のものとした。


 ユベントスのアントニオ・コンテ監督が「走れる選手」を最優先で要求したように、この戦術を成功させるためには運動量の多いMFが必要不可欠だ。さらに対人守備の強い3バックも欠かせない。プランデッリ監督はMFピルロ、クラウディオ・マルキージオ、DFジョルジョ・キエッリーニ、レオナルド・ボヌッチ、アンドレア・バルザーリといったユベントス勢をそのまま起用し、さらに上下動とディフェンスラインのカバーが求められるウイングハーフには、ナポリでほぼ同じ役割を求められているクリスティアン・マッジョを起用。スムーズなチーム構築を実現させた。


 しかも、ただユベントスを模倣しただけではない。スペインやクロアチアのようなポゼッションチームに対しては3−5−2のユベントス式でプレッシング、自分たちが主導権を握りそうな相手(アイルランド、イングランド)に対しては予選で使った4−4−2、という使い分けを行っている。


 さらにダニエレ・デ・ロッシの存在も見逃せない。昨シーズンのユベントスは、ピルロを封じられたときに攻撃が行き詰まることも散見されたが、ピルロに負けず劣らずの配給能力を持つデ・ロッシが3バックの中央に入ることで相手は的を絞ることができない。FWマリオ・バロテッリ、アントニオ・カッサーノの個人能力を含め、イタリア代表はオリジナルを超える要素が十分にあった。無論、それでもやはり細部には修正点が多く、試合中に何度も両方の手のひらを内側へ動かしながら、「コンパクトに!」という修正メッセージを送っていたプランデッリ監督の手腕も大きい。


 ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会では、決勝に7人の選手が先発したことでスペイン代表のバルサ化が話題になったが、とはいえ、やはりバルサの戦術はメッシのドリブル突破があって成り立つもの。バルサの選手がたくさん名を連ねていても、スペイン代表は似て非なるチームというイメージが強い。


 そういう意味では今回のイタリアこそ、クラブ戦術をうまくコピーしたモデルケースと言えるのではないだろうか。

清水英斗
清水英斗

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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