「1番・イチロー」を救った川崎の存在

木本大志

「ムネは誰よりも僕のことを知ってる」

本塁打を放ったイチロー(背中)と抱き合う川崎。その存在がイチローの助けになっている 【写真は共同】

 復帰した1日は、ヒット1本。2日には、2打席連続本塁打を放ったものの、3日からは3試合連続ノーヒット。連続無安打は20打席に達し、3番で結果を出せなかったことを責めた地元メディアは、早くも1番失格の烙印(らくいん)を押そうとしていた。

 そのときの空気をイチローはこう感じていたそうである。
「周りが、重くしてくれましたからね。僕、そんな無神経な人間じゃないから」

 無神経じゃないとは、雑音は耳に入るし、それを気にしてしまう――ということのようだが、そんな窮地を救ったのは、イチローと同じチームでプレーすることだけを望んでマリナーズに入団した川崎宗則だったという。
「ムネにいろいろ愚痴ったり、愚痴にもつき合ってもらったりもしたし、技術的なことだけじゃなくて、いろんな話をした」

 それは、シリーズの3戦目までヒットが出なかったアナハイムでのことらしいが、「僕が見られない角度から、僕のことを見られる。誰よりも僕のことを知ってる」とイチローは川崎について話し、「僕としては、強いカードですよね」と自分を慕う後輩の存在感を、切り札に例えている。

雑音を消すにはヒットを積み重ねていくしかない

 そういえばキャンプの頃から、イチローは川崎効果を口にしていた。
「ダッグアウトで野球の話がきっちりできるのは、次へつながっていく気がする。今まで、1人で処理してきたものを共有して何かを生み出す。一緒にゲームに入って、一緒の日にプレーしていると、そういうことが生まれますから」

 ただイチローは、ここ2試合で1安打に終わり、メジャー通算2500安打まではあと6本で足踏み。調子が上がってきたな、というところでそれが続かないのが今年の傾向で、雑音もまた、くすぶり続けている。

「1番・イチロー」はおそらく、このまま動かないだろう。しかし、イチロー自身が「未来のことは分からない」というように、結果次第では……という含みが、今回の1番復帰には感じられる。この1番復帰はさらに、再契約への試金石的な意味合いも持つものと思われ、結果がもたらす影響は小さくない。

 慣れ親しんだ打順、慣れ親しんだ役割で、再び存在感が証明できるかどうか。今、彼の真価を問うような打席が続く。

<了>

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