小笠原、今野ら東北出身者の復興への思い=震災から1年3カ月、スペシャルマッチ開催へ

元川悦子

サッカー界として働きかけていくこと

宮城県出身の今野(左)も小笠原らとともに東北人魂の発起人に名を連ね、支援を続けている 【写真:澤田仁典/アフロ】

 そこでJリーグは7月21日、被災地・茨城のカシマスタジアムで「スペシャルマッチ」を実施することにした。このゲームは震災発生から1年以上が経過した被災地の今を再認識し、われわれにできることを今一度、考え直す絶好の機会になるだろう。

 試合は「Jリーグ選抜」対「Jリーグ TEAM AS ONE」という形で行われる。TEAM AS ONEは東北出身者やベガルタ仙台と鹿島アントラーズから選抜され、被災地にゆかりのある選手で構成される。一方、Jリーグ選抜はサポーター投票ならびに選考委員会の推薦により選出される。被災者の招待や募金活動なども行われる予定で、試合の収益金やテレビ放映権料の一部が復興支援に回されるというから、社会的貢献も期待できそうだ。

 1度や2度、チャリティーマッチを開いたところで、苦境に直面している被災地のサッカー環境がすべて改善されるわけではない。それでも、昨年3月に大阪・長居スタジアムで行われたチャリティーマッチなどは、社会的影響力が非常に大きかった。小笠原が「東北人魂」と大きな字で記されたTシャツを着て登場したり、カズ(三浦知良=横浜FC)がゴールを決めてカズダンスを踊る姿を見て、傷ついた人々は前向きな気持ちを取り戻そうと思っただろう。昨季のベガルタ仙台の大躍進、仙台で中学・高校時代を過ごした香川真司(ドルトムント/ドイツ)の大活躍も、被災地の人々の生きる希望や勇気になったはずだ。

 サッカーにはそれだけの大きな力がある。時間の経過とともに、被災地支援への関心が薄れつつある今だからこそ、サッカー界として何かを働きかけていく必要がある。今回のスペシャルマッチは大きな力になる可能性があるのだ。

 このイベントが、選手たちの支援活動への意識を高揚させる好機になれば、さらにいい。小笠原が「サッカー選手はもちろんピッチ内での仕事が一番だけど、練習の時なんかは結構時間がある。それを支援活動に充てる方がよっぽど有意義だと思う。みんな大変大変って言うけど、オンとオフを切り替えてやれば問題ない。おれらが動くことで関心を持ってくれる人も多いと思う」と語るように、サッカー選手の一挙手一投足は社会的インパクトが大きい。一つひとつの行動を人から見られる立場にいることを、彼らには今、ここで強く認識してほしい。

スペシャルマッチで本物の成果を

 宮城県出身の日本代表DF今野泰幸(G大阪)などは、小笠原らと同様、率先して動いてきた選手の1人である。昨年1年間を振り返ってみると、まずクラブの募金活動で10数回、街頭に立って自ら義援金集めを呼び掛けている。昨季まで所属していたFC東京のチームメートやスタッフには「衣類やグッズ、備品など送れるものは何でも送りたいんで出してほしい」と協力を要請し、2〜3回は現地に届けている。さらには小笠原らとともに東北人魂の発起人に名を連ね、気仙沼や福島、宮古などに赴いて被災地の子供たちを元気づける努力を続けている。

 日本代表選手として2014年ワールドカップ・ブラジル大会のアジア最終予選を戦っている彼は、普通のサッカー選手よりも多忙である。にもかかわらず、1年間でこれだけ精力的に活動をこなしてきたのは、「故郷を早く元の姿に戻したい」と強く願っているから。小笠原や遠藤、佐々木らにしても同じ志を抱いている。そういう選手が増えれば、サッカー界の復興はもっと急ピッチで進んでいくはず。選手たちには今回のスペシャルマッチを通して、持てる力を結集させてもらいたい。

 小笠原は「子供たちが思い切りボールを蹴れるグラウンドを作りたい」と強く思い、候補地のリストアップや運営方法など具体的な方策を模索しつつある。「東北の漁業関係では、1万円の出資を募って養殖施設や船を修理するお金に充て、獲れた魚介類を還元するっていう支援方法があると聞いてます。グラウンドを作るための募金があってもいい」と語り、資金集めのアイデアも考えるなど、本当に精いっぱいできることをやっている。そういう動きをサッカー界全体でバックアップしていけば、被災地からサッカーが消えるようなことはなくなる。

 7月21日のスペシャルマッチを単なるイベントで終わらせず、本物の成果につなげていくこと。それが何よりも肝要である。われわれも選手や関係者を支えるべく、できるところから動きをスタートさせたいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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