やり投の新鋭・ディーン元気、まぐれとは言わせない確かな力=陸上
ディーン元気は村上を抑え初優勝。その勢いはとどまることを知らない 【写真は共同】
ディーンは先月29日の織田記念陸上(広島)で日本歴代2位の84メートル28を投げ、ロンドン五輪のA標準記録(82メートル00)を突破したばかり。2週続けてのロングスローで日本やり投界の第一人者である村上に競り勝ち、ロンドン五輪出場にまた一歩近づいた。
一投目で勝負を決める81メートル43
一投目で80メートルを越えたのはディーンただ一人。比較的条件がいいうちに先手を取るという、狙いは見事にハマった。しかも、織田記念で86メートル31の自己新をマークしたスチュアート・ファーカー(ニュージーランド)や村上に対してプレッシャーをかけることにもつながった。
結局、80メートルを越えたのは一投目のみに終わったが、2投目で79メートル98、6投目で79メートル99と、コンスタントに80メートル付近を記録しており、再現力という点でも及第点の出来だった。「先週投げた84メートルが一回だけだったので、まぐれと思われていると思った」と苦笑いしたが、「しっかりと安定した助走から投げにつながって、確実に一投、一投再現できるようになっているので、去年に比べれば成長できたなと思います」と手応えを実感した。
特に3投目を投げた瞬間はベストスローに近い感覚で、本人曰く「83メートルを越えたくらい」の感触をつかんだようだ。ただ、残念ながら上空を強風が舞ったため、思ったほどの記録は出なかった。ディーンは「感覚と距離が比例しなかった。すぐ手前に落ちちゃった。変な感じの試合でした」と振り返ったが、その感覚が確かならば、84メートルの再現もそう難しいものではないのかもしれない。
日本選手権の優勝争いは村上との一騎打ち
「フィンランドに行く前は身体を大きくしないと村上さんのような破壊的な投げができないと思っていました。それをやることがまず第一と考えていました。その上で、2月からフィンランドに行って、83メートルを投げる選手たちと生活をともにする中で、心理的な面で前進したかなと思います。技術的にはラストクロスで右足がついてから左足をつくんですけど、右左のタイミングというか、自分の中での絶妙なタイミングが分かってきました。試行錯誤していけばもっと上を目指せると思います」。
昨年まで、やり投の代表は事実上、村上の一択のみで、代表選考はほぼ無風状態にあった。しかし、ディーンの台頭により、状況は一変した。今シーズン、村上とディーンはともにA標準記録(82メートル00)を突破しており、残すは6月の日本選手権(大阪)で優勝することが代表入りの条件となる。村上は万全の状態ではなく、ディーンにもチャンスは十分ある。「村上さんや海外の選手と緊張感がある中で投げられて、冷静な動きができていたので、そこは一番の収穫かなと思います」。記録の大幅更新もさることながら、勝負がかかった場面で力を発揮できたことが、今後に向けては大きなプラスとなりそうだ。
日本選手権の優勝争いは、村上とディーンの一騎打ちと見てほぼ間違いないだろう。その村上について、ディーンは「世界への道を切り開いてくれ、大きな影響を与えてくれた大先輩です」とリスペクトしてやまない。さらに、「織田記念では体調が万全だったら抜かれていたと思うし、どこまで逃げ続けられるかですね」とあくまで控えめだ。それでも、「(日本選手権は)記録もですけど、とにかく勝負なので。村上さんに負けないように頑張ります」と奮闘を誓った。
英国人の父を持つディーンにとって、ロンドン五輪は特別な大会だ。「(五輪出場が)決まるまではホッとできないし、決まったら次もある。とにかく、けがをしないように、ロンドンの舞台ではしっかり予選で通過記録を出して、決勝で思い切り投げたいです」。その視線は早くもロンドンの空をとらえている。
<了>
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